思わぬ新人研修を任されたM君は果たして上司の要求に応えられるのか(出典:写真AC)

■果たして防災教育オンリーでよいか?

総務のM君は防災担当です。BCP事務局という役割名も与えられており、BCP文書に何か書き換えの必要が生じたら、オリジナルのファイルを開いて訂正し、災害対策本部メンバーに配布するといったことも手掛けています。これらの業務を引き継いで足掛け2年目、覚えることは山ほどあります。

新人研修などの準備で忙しい4月のある日、M君は上司からあることを言われました。せっかく当社にはBCPがあるのだから、今年度の新人研修のカリキュラムの一つは、防災ではなく「BCP教育」にしてみてはどうかという提案です。

「なるほど、それはグッドアイデアですね!」と一返事で賛同してはみたものの、BCP教育なるものが存在するのかどうか、M君は知る由もありません。おそらく上司は何らかのイメージを持っていて、それを踏まえての提案だろう、ぐらいにしか考えていなかったのです。そして、時間のある時にもう少し詳しく尋ねてみようと考えていました。

ところが、何日か経って再び上司から声を掛けられたとき、M君は面食らってしまいました。

上司:「どうだい? 例のBCP教育。何か具体的な青写真は描けたかな?」
M君:「そのことなんですが、例えばどのような教育のことを指すのでしょうか?」

上司は一瞬ぽかんと口を開けていましたが、すぐに気を取り直してM君を説得し始めました。

■BCPに関する教育とは何ぞや

「あれ、M君分かってないようだね。新人研修まであと3週間しかないんだぞ。これは僕の思いつきの提案なんかじゃない。防災教育だけでよいのか?とは社長から言われたことなんだ。とにかく、どんなことをやるのか、知恵を絞って早めに中身を固めてくれないか!」。

社長からの指示ならそれを早く言ってほしいものだとM君は少々不満顔でしたが、こうなったら、当社初のBCP教育の実績を作ってやろうという意気込みも同時に生まれました。

さっそく翌日、BCPの参考書を買ってきて調べてみたのですが、いろいろなことがたくさん書いてあります。やっと「教育」という文言を見つけたものの、わずか1~2行の抽象的な言い回しで終わっていて、具体的にどのようなテーマでどんな教育をするのかは皆目分かりません。まるで一人ボートに乗って大海原の真っ只中にいるような取りつく島のない気分です。

そこで彼は、以前勉強会で学んだPDCAのことを思い出し、何はともあれこの枠組みに当てはめて考えれば、何かカタチが見えてくるのでは、と希望を見出しました。すぐさま実行です。

まず「Plan」を組み立てる前提として彼が考えたのは、どんな種類の教育が望ましいか、焦点を絞ることです。災害時にBCPを手にして使うのは経営者から中間管理層までのいわば意思決定者たちです。そしてその下には意思決定に基づいて重要な業務を遂行したり、復旧活動に当たる一般社員がいます。このとき意思決定者が社員全員そろっていることを確認し、速やかに必要な役割をアサインできるようにするには、日頃から一般社員として心得ておくことは何だろう?と彼は自問してみました。