2021/05/24
事例から学ぶ
自然災害に備え、BCP(事業継続計画)や災害対応マニュアルを整備している会社は多い。しかし重要なのは、その内容を従業員が理解して、災害時に実際に動けるようにしておくことだ。住宅会社のアネシスグループ(熊本市東区、代表取締役:加藤龍也)は、過去の災害対応の経験を生かして、災害前・災害後の従業員の行動手順を分かりやすい電子版のマニュアルとしてまとめ直した。さらに顧客の被害状況を正確に把握するために、デジタルツールを駆使しながら災害対応力を高めている。その取り組みは、一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会からも評価され、同会主催のジャパン・レジリエンス・アワード2021で「最優秀賞」を受賞した。
住宅会社アネシスグループ
熊本市東区
ジャパン・レジリエンス・アワード最優秀賞を受賞
2016年4月14日、16日と立て続けに最大震度7を記録した熊本地震では、14日の前震発生後1時間程度でほぼ全社員が会社に集まり、深夜までかけて顧客の安否確認に当たった。16日の本震では、通信が途絶する中、全社員が手分けをして全顧客を訪問し、被害確認や応急復旧を実施した。
熊本県にある住宅会社のアネシスグループは、熊本地震において、このような迅速な災害対応を実現することで、顧客から「災害時でも頼れる企業」という信頼を獲得した。その同社では、熊本地震後も災害対策を継続的に見直している。最も力を入れているのが、被害状況の早期把握だ。
災害が発生すれば、多くの住宅が被災する。そのまま放置すれば顧客の生活にも支障を来たすだけでなく、二次災害につながる危険もある。しかし、大きな災害になれば、情報収集は簡単にはいかない。屋根、壁、床、柱、さらには水道管やガス管、ガラスなど、被災箇所や被災の仕方は多岐にわたり、災害によっても傾向は異なる。
また、通信はつながりにくく、出社できる社員数も減ることが想定される上、仮に社員が集まったとしても全員が同じ知識や技術を持っているわけではないので、顧客物件などがどのように被災したのか正しく収集できない可能性がある。
こうした課題に対して、アネシスグループではデジタルツールを活用して迅速かつ正確に情報収集ができる仕組みを構築した。住宅の部材ごとに被災状況を選択式で入力できる。フォーマットが統一されているため、どの被災家屋の緊急度が高いのかも一目で分かる。社員はタブレットで現場を見ながら入力することができるため、書類などの管理が煩雑になる心配もない。
顧客から寄せられる電話やメールでの被害報告も一元管理できるようにした。ウェブ上に顧客用の簡易報告フォーマットを用意することで、顧客は専門知識がなくても被害状況を簡単に報告することができる。従業員用の情報収集ツールほど細かな項目には分かれていないが、迅速な対応に結びつく。今後は災害時の顧客との緊急コミュニケーションアプリも開発する予定だという。
災害対応において、被害状況や対応状況の共通認識を持つことは、被災物件の見落としを防ぎ、無駄を省いて迅速な対応を実現する上で極めて重要。同社が開発した情報取集ツールは、工務店に限らず、さまざまな災害対応の高度化を実現する可能性を秘めている。
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