またもや消火設備が人を殺す悲惨な事故が発生した。4月15日、東京都新宿区下落合のマンション地下駐車場で二酸化炭素(CO2)を放出して消火する設備を誤って作動させ4人が死亡する事故が起きた。20~50代ぐらいの男性6人が取り残され、うち1人が自力で脱出し5人が救助されたが4人の死亡が確認された。一人は重症だという。

地下駐車場では午前中から、腐食していた天井の石こうボードの張り替え作業が行われていたという。閉じ込められた6人はいずれも作業員で、火災が起きた場合に二酸化炭素を放出して消火する設備を誤って作動させたため、シャッターが閉まり二酸化炭素が充満したとみられる。消防庁によると、消防隊員が現場に到着した時点での駐車場内の二酸化炭素濃度は21%で、通常の数百倍だった。

昨年12月には名古屋市中区の「ホテル名古屋ガーデンパレス」で、地下駐車場で二酸化炭素を含む消火用ガスが噴出し、駐車場でエレベーターの改修作業に当たっていた作業員が死亡した。今月1月23日には、東京港区のビルの地下駐車場で同じく消火設備の点検作業中に二酸化炭素が充満し2人が死亡する事故が発生した。

二酸化炭素消火設備は、地下駐車場などの空間のほか、電気室、IT室など、水を使用したスプリンクラー設備が設置できない場所等にも使われている。どのようなものなのか。

リスク対策.comでは、同設備の問題点について、2020年12月25日付けで消火設備に詳しい牧功三氏に、さらには、その仕組みや操作方法、注意点について、元東京消防庁警防部長で一般財団法人消防防災科学センター危機管理室参与、現在、”Safety Life Creator”として活躍する佐藤康雄氏にそれぞれ解説してもらっている。

■電気室・IT室にも使われる二酸化炭素消火設備の注意点

■「人災」も忘れたころにやってくる

なぜ今、このような事故が相次いで発生しているのか。1つ考えられるのが過去の教訓が引き継がれずに忘れ去られているということ。

佐藤康雄氏は「昭和から平成に変わる頃、二酸化炭素消火設備の消火薬剤の誤放出事故が連続的に発生した」と振り返る。「時代が平成から令和に変わった今、それまでは発生していなかった二酸化炭素消火設備の消火薬剤の誤放出事故が再び連続して起きています。平成の時の事故とその対応が、20年近く経って忘れられつつあることが、同様の事故が繰り返される原因ではないかと考えます」(佐藤氏)。

一方、牧氏は、「人が常時いる場所(例えば作業者が常駐するようなIT室、電気室、防災センター)や、駐車場のように一般の方が出入りする場所にこういった消火設備を使用するのは、中毒および窒息の危険性があるため望ましくない。ホテルや商業施設など不特定多数の人々が出入りする場所に、全域放出型二酸化炭素消火設備のような危険な設備が設置されているのは不安なため、法律・条令を改正すべきと思われるかも知れないが、建築基準法や消防法には既存不適格というルールがあり、建物が建てられたときの法律に従えばよいことになっている」と問題点を挙げる。

一度ならず、二度、そして三度と繰り返された二酸化炭素消火設備による事故。そこから見えてくるのは、あらゆる危機管理において共通している検証と改善の甘さ言える。