□6W1Hの明確化
A/H1N1への対応以降、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)等が制定され、対策の決定権限等が明確化されたところはあるものの、依然として判断基準等については曖昧な部分も残っている。そこでまずは、事態進展の各段階の感染状況やその他社会状況を踏まえて、いつ(When)・どういう根拠(Why)で・誰(Who)が・誰に(Whom)・何(What)を・どの範囲(Where)で・どうやって(How)実行するか、いわゆる6W1Hの確認が重要となる。 

例えば、特措法により、外出自粛・施設使用制限について、誰(Who)が判断するかは明確になったが、どの範囲(Where)で実施するかは決まっておらず、これはおそらく実際時の状況に応じた判断となる。
6W1Hの中の要素が一つでも曖昧な場合は、そこが対策上の課題となり得るため、6W1Hの内容を具体に確認・検討するような訓練も有効である。

□意思決定 
危機管理の肝は意思決定である。意思決定の留意点は以下のとおりである。 

まず、新型インフルエンザ対策の意思決定では、利害対立いわゆるジレンマの判断に直面するということである。例えば、ある判断局面において、事業継続を優先するか従業員の安全確保を優先するか、というような判断がこれにあたる。これは、地震発生時の対策が停止した社会機能をなるべく早く再起させるという足し算の概念であるのに対し、新型インフルエンザ発生時の対策は通常の社会機能の停止をどこまで許容できるかという引き算の概念であることに起因する。ジレンマの判断においては、取り得る対策ごとのメリットとデメリットを勘案して合理的な判断を行うこと、最終的に何を守るかといった絶対的な価値基準を拠り所とすること等が重要となる。 

次に、新型インフルエンザ対策の意思決定では、不確実状況下での判断を迫られるという点も特徴である。

訓練での検証ポイント∼危機管理の視点から∼
A/H1N1流行初期は、病原性や感染力等の疫学情報が不明であり、その不確実性によって社会は大きく混乱した。そこから、新型インフルエンザの危機管理では、致死率等や感染力等を総合的に勘案して複数の対策の選択肢をあらかじめ用意し、状況に応じて柔軟かつ的確に判断することが重要ということを学んだ。なお、そのような準備を講じつつも、流行初期は万が一病原性が高い場合を想定し、最大限の措置を選択せざるを得ないということも認識した。

□事態進展のスピード
A/H1N1の対応から、水際対策や地域封じ込め策によってウイルスの侵入や感染拡大を完全に防ぐことは不可能であることがわかった。また、A/H1N1については、メキシコでの発生覚知からわが国での感染患者の発生までに3週間しか猶予がなかった。今後は、事態が緩やかに進展するのではなく、世界のどこかで新型インフルエンザが発生し、それが自分たちの地域に影響を及ぼすまでのリードタイムはほとんどないと考えておく方がよいだろう。つまり、あらゆる局面において迅速な判断が求められるということである。

□新たな被害様相 
次に流行する新型インフルエンザはA/H1N1と同じ様相とは限らない。例えば、高い病原性の新型インフルエンザの発生または発生の蓋然性が高まった場合には、現行の法律に基づき、国内発生早期の段階で数週間の学校休業や外出自粛、施設使用制限等の緊急事態措置が講じられることも十分あり得る。そうなると、社会機能を計画的に停止させることによって起こり得る影響の緩和策という新たな対策課題に直面することになる。過去のA/H1N1への対応イメージに固執することなく、柔軟な発想で、対策のあり方について議論を重ねておくことが肝要である。なお、A/H1N1では起こらなかった社会状況(例えば欠勤率40%という状況)について、それらが本当に起こり得るかどうかを議論するのは本質ではない。もしそのような状況になったら、という発想、いわゆる結果事象起点で想像力を膨らませておくべきである。

□連携(サプライチェーン連携、社会インフラの相互依存性等) 
自治体の行動計画やBCP、企業のBCP等の策定が進められているが、いずれも組織単体で検討されていることが多い。しかし実際には、自治体や企業の事業が継続するためには、取引先等のサプライチェーンやインフラ等が機能していることが前提となる。したがって、レジリエンス発揮のためには、サプライチェーン全体や社会機能の相互依存性までを考慮した事業継続性の検証が必要である。

そのためには組織単体ではなく、外部の関係機関を含めた連携訓練等を積極的に実施していく必要がある。