2013/01/25
誌面情報 vol35
品川区役所
東日本大震災を教訓として、自治体など公的機関でも、災害時の対応力や地域防災力を向上させるために訓練の見直しが行われている。品川区役所では、近年懸念される首都直下地震に備え、昨年11月に、新たにロールプレイング方式の図上シミュレーションを取り入れた職員の意思決定訓練を実施した。
目的別に2種類の訓練を実施
品川区では、毎年、地域全体の防災力向上に向けた区民と職員の連携による地区防災訓練と職員の災害対応能力を養うための大規模な職員防災訓練の2つの訓練を実施している。いずれも、実際に災害対応を実演する実動訓練だが、昨年11月に行った職員防災訓練では、新たな試みとして、ロールプレイングの要素を取り入れた。訓練には、品川区職員約250人と陸上自衛隊や品川建設防災協議会など、総勢330人が参加した。
区長をトップにした職員防災訓練
ロールプレイング方式の訓練とは、訓練の進行管理者を通して、災害時に予想される状況や事案を訓練参加者に付与し、それに対して参加者がそれぞれの役割に基づき意思決定するというもの。事前にシナリオを公開しないため、ブラインド訓練とも呼ばれる。災害時における業務活動に関する組織構成員の気づきの醸成や判断力を養うのに有効だ。一般的には、図上訓練として行われるが、品川区が今回実施した訓練では、実動訓練の一部に、ロールプレイングの要素を組み入れた。
訓練は、平日の午前8時45分に東京湾北部を震源とする震度6強の地震が発生したと想定した。
区長をトップにした災害対策本部を設置し、進行管理者が次々と被災状況などの災害情報を提示。それに基づいて、参加者である職員が避難所の開設や避難勧告など初動対応にあたった。災害時に、意思決定が求められる部長クラスを中心に管理職者のほとんどが参加した。

今回、ロールプレイング方式を取り入れた理由について、品川区防災まちづくり事業部防災課の山口克己防災安全担当課長は「近く発生が懸念される首都直下地震では、木造住宅の密集地域の火災など、地震による直接被害だけでなく2次災害を含め、都内の各地域に甚大な被害が出ることが想定される。区役所は、災害が発生した時、限られた情報、職員体制の中でも地域の司令塔として臨機応変に対応できるように管理職の判断力を強化する必要がある」と説明する。
4つの時間帯に分ける
災害対策本部は、防災課や総務課の管理職者18人で構成され、その下に、実効部隊として「統制/指揮命令/情報管理」「区民支援」「避難所開設・運営/救援」「医療」「応急復旧」と、役割に応じた5つのグループが設置されている。訓練は、地震発生時刻の朝8時45分から「発災初期」「(発災から)1時間後」「3時間後」「3時間以降」の4つの時間帯に分け、各段階で災害対策会議を開き、進行管理者である統制班が状況を付与。各グループは付与された状況や事案に対して対策を決定し、模擬的に対応にあたった。時間は平日の通常業務内の午前中に実施した。
災対本部の5つの役割
防災訓練の全体イメージは、図1のようになる。

「統制/指揮命令/情報管理」グループは、職員の安否確認や災害対策本部の設置の周知、区議会との連絡・情報収集などを行い、主に本部庁舎内での連携について訓練した。 一方、「区民支援」「避難所開設・運営」の各グループは、区の児童施設や教育施設の安否状況の把握、地域の各避難所の開設などを担当するため、実際に指定避難所や学校まで職員が足を運び、避難所の開設までの手順などを確認した。
「応急復旧」グループは、自衛隊などと協力し、建設機械を使った土砂の撤去や倒壊家屋から要救護者を助け出すなど、実動訓練を中心に取り組んだ。
5つのグループの下には、各役割を実現するために細分化した担当部門が決められている。「統制/指揮命令/情報管理」グループなら指令情報部、企画広報部、会計部、議会対策部、総務部、無線通信部、「避難所開設・運営/救援」グループなら教育部、救助1部、救助2部といった具合だ。各部は、基本的に平常時の業務活動に関連がある部署が割り振られているが、中には、平時と災害時の役割に関連がほとんどない部署もある。
山口氏は、「例えば、障害者や要介護者の救護要請などを担当する救助2部は、財務部などが担当している。こうした平時と有事の時の業務の関連性が薄い部署では、訓練を通して災害対応能力を向上する機会を設けることが重要」と話す。
実際に、今回の訓練を通して、各部署で多くの課題が発見されたという。例えば、これまでは火災の発生が報告されても、防災担当の部門以外では、適切な対応判断をすることは難しかった。しかし、今回の訓練では、避難所の設営に際して、近くで火災が報告されたら、実際に設営するべきか否か、各部門が判断しなくてはならないことが明らかになったという。
課題は、平日の午前中という時間帯の訓練では、区役所が業務時間中であるため、参加者全員が高い防災意識を保ちながら訓練するのは難しいということ。平日の夜間、あるいは休日に災害が発生した場合に備えた今回とは異なる時間帯の訓練も必要になる。 品川区では、今回の訓練で見えた課題を基に、今後もより効果的な防災訓練を実施していく予定だという。
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