2012/11/25
誌面情報 vol34
裾野拡大をめざし「入門編」追加
中小企業庁BCP策定運用指針が18年度の公表から初めて改定された。これまでの基本、中級、上級の3コースに加え、今年4月から新たに入門編を追加し、初歩的なBCPから自分にあった形でステップ・アップが図れる体系を整備した。今後は、BCP策定に取り組む企業の数を増やすとともに、業界団体などの集団単位での取り組み、地域単位の面としての取り組みを含めた展開を目指す。
中小企業庁経営安定対策室によると、中小企業へのBCP普及率は、東日本大震災で関心は高まったものの、この5年間で必ずしも伸びている状況とは言えない。
経営安定対策室の成瀬輝男課長補佐は、BCP普及のためには従来の防災のためのBCPという考えを変える必要があると説く。
「BCPは防災のためだけの計画ではなく、日常の経営計画(戦略)そのもの。従業員管理、販売管理、原材料管理など、経営管理の改善はすべてBCPとも関係している。BCPに取り組むことで、必然的に経営の効率化が図れる」とする。
今回のBCP策定運用指針改定の目的は、一般的にBCPは専門家による災害時の特別な対応のための計画と捉えられている感があるが、この認識を改め、BCPを日常的な経営活動の一環として位置付け、非常時だけでなく、平時でも取り組むべき課題であることを明記し、これを実行するためのツールを提供することで、小規模事業者を含めたすべての業種、企業でBCPに取り組む体制を体系的に整備することにある。
さらに、企業のBCPの取り組みをバックアップするため、経営支援機関等によるBCPの指導・相談体制を構築し、BCP普及促進に向けた支援体制の整備を併せて行っている。
こうしたBCP普及に向けた取り組みの第一歩として、入門編によりBCPに取り組む事業者の裾野を広げた。成瀬氏は「すべての企業にBCPのスタートラインに立ってもらうため、まずBCPを特別なものと捉えず策定に取り組めるよう、最低限必要な基本的な事項を5項目に絞り、手間がかからず、かつ、事例等
も加え、わかり易い内容を示した。70点でもいいからまずは実践してもらうことが肝心。身の丈に合ったBCPを策定してもらい、順次ステップアップしてもらえればいい」と入門編追加の趣旨を説明する。
■集団での取り組みを促進
集団でのBCPの取り組みも進める。現在、経営支援機関(全国の商工団体など)に呼びかけて団体単位でのBCP策定を促している。小規模な事業者は単独での策定は難しくても、団体単位(業種組合、工業団地、商店会等)で取り組むことで、BCPの策定、実行の効果が高まり、問題意識の共有、連携強化の相乗効果も期待できる。
さらに、各団体に対してBCPの普及啓発を図るとともに、主体的・継続的に会員中小企業にBCPを教えられるよう、経営安定対策室の職員や策定運用指針の改定に携ったコンサルタントらが講師として必要に応じて出向き、指導者を育成するための研修会を開催している。なお、現在、団体単位での集団の取り組みについての策定指針を作ることも検討している。
今後は、団体単位、BCPの集団的な取り組みに加え、地域単位、面的な取り組みが進むことで、異なる業種や、行政が連携できるようなプラットフォームづくりへと発展させることが期待される。「同じ地域で同じ問題意識を持つことで、切磋琢磨でき、情報交換も図れ、団体を介しての業種間、地域間の連携体制を構築する必要がある」(成瀬氏)。点から線、そして面へと体系的な普及を展開していきたい意向だ。
■BCP策定に補助金はつけない
一方、BCP策定のため補助金を付ける考えがあるかとの問い掛けに対して成瀬氏は「補助金がなければBCPをつくれないというのは経営としておかしい。いざという時、生き残れるかどうかは経営の必須課題であり、補助金をつけて行う話ではない。何より自発的に必要性を認識することが大切である」とBCPの策定はあくまで事業者自身の自発的な取り組みであることを強調する。
「当庁としても、BCP策定のため、コストをかけずとも取り組めるよう、BCP策定指針、参考事例集をはじめ、行政としてできる策定のための支援を行うとともに、中小企業BCP策定指針に基づき事業者が策定したBCPに則って行われる設備投資等に必要な資金を対象とした、政府系金融機関による低利融資の拡充等を検討していきたい」(同)。成瀬氏はこのように述べ、行政としては事業者の自発的な取組みの展開を促進させるための環境整備でサポートしていく考えを示している。
■簡単にBCPがわかる!
解説「中小企業庁BCP策定運用指針」入門編
新たにつくられた中小企業庁BCP策定運用指針は、同省のホームページ(http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/)からダウンロードできる。全41ページだが、このうち、実際に運用する事業継続計画(BCP)は、わずか6ページ。5つの様式を埋めれば、BCPが完成する。 様式1は、BCPの目的と基本方針、重要製品について。様式2は被害想定(インフラへの影響と会社への影響)について。様式3は、経営資源の事前対策。具体的には、人、物、情報、金などについて、事前対策の有無と、誰がいつ、何をするのかを記入する。様式4は緊急時の体制。そして様式5は、BCPを定着させるための教育計画と、BCPの見直しなど評価改善の計画。製造業、・サービス・小売業、運送業、飲食・宿泊業など業種ごと雛形が用意されている。
入門編を策定したのは、同策定業務の受託企業であるNKSJリスクマネジメント株式会社。取締役リスクコンサルティング事業本部長の高橋孝一氏は、特長として「ポイントを絞ることで、2時間から3時間でBCPが作れるようにした。重要業務分析やリスクアセスメントなど難しい用語を使わず、重要な商品は何か、それを提供するために事前対策として誰が、いつ、どんな対策をすべきかといった具合に可能な限りわかりやすくしている」と説明する。
目標復旧時間の設定は、あえて省いた。ただ、必要最低限考えておくべきこととして、代替要員、代替サービスを検討することを求めている。「耐震改修をしろといっても難しいので、必要な要員が集まれなくなった時に、誰が代わりに来るのか、工場が使えなくなった時に、どこで生産するかなど、経営資源が使えなくなることを前提に考えてもらうようにしている」(同)。
高橋氏は「被害を軽減させるという視点ではなく、これからは、企業の事業戦略として、BCPに取り組むことによって取引先や顧客から評価され、最終的には儲けにつながる。BCPへの取り組みを積極的にアピールしていってほしい」と話している。
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