ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情
現場到着から1分以内に放水開始するSTEP訓練について
自分の子どもが2階で寝ていたらどうやって助けるのか?
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事/
一般社団法人 日本国際動物救命救急協会 代表理事
サニー カミヤ
サニー カミヤ
元福岡市消防局レスキュー隊小隊長。元国際緊急援助隊。元ニューヨーク州救急隊員。台風下の博多湾で起きた韓国籍貨物船事故で4名を救助し、内閣総理大臣表彰受賞。人命救助者数は1500名を超える。世田谷区防災士会理事。G4S 警備保障会社 セキュリティーコンサルタント、FCR株式会社 鉄道の人的災害対応顧問、株式会社レスキュープラス 上級災害対策指導官。防災コンサルタント、セミナー、講演会など日本全国で活躍中。特定非営利活動法人ジャパンハート国際緊急救援事業顧問、特定非営利活動法人ピースウィンズ合同レスキューチームアドバイザー。
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みなさんは、一般住宅の火災現場に到着後、平均で何分以内にフル装備(面体着装状態)し、放水開始しているだろうか?
消火栓から取水する前、水槽付きポンプ車、タンク車など、まず1トンの積載水を使う場合、例えば65ミリホース1本、分岐を通して、50ミリホースを1本延長し、3キロの圧力でガンタイプのノズルから放水した場合、積載水を何分間で水を使い切り、その数分の間に各隊員が同時進行で何と何をするべきなのか?
機関員が消火栓から取水に掛かる時間とその手順と手法は?
また、最初の数分間で効率よく放水するためには、現場到着寸前に火災対象物をどう観察し、どこに車両を停めて、どこからどのように放水を始めるのか?
下記のシンシナティ市消防局の火災防御教育訓練ビデオを構成が、非常に良くできています。上記に述べた、現場到着時に最低限消防士達が行うことを教えるために考えさせ、実際の火災現場の映像で初期対応を誘導しながら教えています。
Quick Water 1 75 fire line CFD (出典:YouTube)
このビデオから学ぶ映像を用いた火災防御訓練の段階的手法は、「STEP(ステップ)訓練」(Scenario・Training・ Evaluation・Practice)と呼ばれています。
以下、STEP訓練について
1、場面ごとに映像を止めてワークショップを行う。その後、実際に映像に合ったような火災防御の課題や問題点を改善し、いかに安全に効率よく放水するかを検討する。実訓練ではチームごとにタイムを競い、安全管理も評価し合っている。
2、もし現場到着後1分以内に放水できたとしたら、それをさらに時間を短縮して30秒以内にするためにはどうしたら良いのか?出来るだけ早く消火することで被害の軽減や延焼拡大防止の目的を最大限に果たすことを主眼点にし、ビデオを録り合って、クラスに戻り、自分たちの活動を見直している。
3、映像を見ながらの各隊ごとの「シナリオ型状況予測ワークショップ(S)」→「実施検証訓練(T)」→「訓練評価グループワーク(E)」→「具体的な部分訓練(P)」という、トレーニングフォーメーションは、アメフトなどのプロスポーツのトレーニング手法から取り入れたそうだが、評価や検証作業を頭と体で訓練できるのはとても理に適っていると思う。
4、何よりも、自分たちが予測した内容が実際に使えるのかを検証できる。また、現場の四季の特性によって、気象条件や時間帯によっても活動条件が変わってくることも予想される。ファシリテーター側は想定に雪や大雨、雷警報下での火災防御活動まで追加想定し、隊員達の安全管理能力と現場判断&活動能力を高めている。
現場到着後、迅速に最初の第1線を延ばし、1分以内に放水開始する。
なぜ、隣の建物に放水しているのか?など、活動の優先順位を考えさせる。
30秒以内、できればそれ以下で初期消火が開始できるように訓練する。
もし、自分の家だったらもっと早く放水開始するのではないか?と隊員の心を動かす。
もし、自分の子どもが2階で寝ていたらどうやって助けるのか?活動の優先順位を考えさせる。
現場到着から1分以内にフル装備で放水開始することをゴールにする。
出動車両内で呼吸器のバルブを開け残圧を確認し、降りたらすぐに一線伸ばす準備、機関員は予備送水をタイミング良く行い、放水開始後、3キロくらいに調整、消火栓からの取水を45秒以内に行うことをゴールにしている。
筒先員は火災対象物入り口直前で面体着装を両手で行うため、ノズルを閉じた状態で筒先を股で挟むように座り込む。小隊長は面体着装完了後、隊員の空気呼吸器のバルブと面体など装着状態を確認し、放水しながらの内部進入準備を行う。
平屋の場合、火災対象物近くまでホースを伸ばす要領は、建物の奥行きx2倍を予測してホースを延長する。写真は消防学校の火災防御効果測定の一部、現場到着から50秒以内に65ミリを3線延長し、放水開始する。50ミリや40ミリホース、25ミリのコードリール型ホースの延長要領も訓練する。
さまざまな火災防御フォーメーションを発表したら、それぞれの内容で実際に現場到着から放水までの一連の流れを訓練する。時間があれば、逃げ遅れ者やペット、子どもなどの逃げ遅れを想定して救出訓練、救急処置、搬送までを行う。
この火災防御戦術訓練の手法はメジャーリーグやアメフトチームが戦術として用いているフォーメーションと、心と体で覚える訓練コンセプトを応用していることもあり、とても理に適っている。
いかがでしたか?
思うのですが、やはり映像の使用用途は災害対応訓練、または現場教養訓練などの目的という前提条件が必要ですが、火災現場など、災害現場のヘルメットカメラやボディーカメラでの撮影は許可し、局内で活用されるべきだと思います。
いくら本や報告書の静止画像で研究しようとしても 、実際に出動していない隊員には伝わりにくく、消防の災害出動が減っている現状で隊員の対応能力を維持し、向上させるためには、今回、紹介したようなSTEP訓練(Scenario・Training・ Evaluation・Practice)の重要性を感じます。
これからの火災防御訓練について、みなさんのご意見をお待ちいたしております。
一般社団法人 日本防災教育訓練センター
代表理事 サニー カミヤ
http://irescue.jp
メール:info@irescue.jp
(了)
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