消火器を使った訓練、やってますか?(画像はイメージです)

うちの会社で火災? 考えたこともないなあ…

ある日、筆者の自宅から1.5キロメートルほど離れた住宅街の一角で、とつぜんドーンとすごい爆発音がしました。それから程なくしてサイレンの音がけたたましく鳴り響き、おまけにヘリコプター2機が飛来する事態に。しばらくの間黒煙が舞い上がっていましたが、鎮火したのは何と出火から30時間以上も経ってからのことです。

出火元は、自治体に騒音や危険物の使用、環境汚染等に関する届け出をしていない無認可操業の工場で、過去にも2度、別の場所で火災を起こしています。今回は、金属加工原料のマグネシウムに引火したことが火災の原因らしいのですが、この情報が消防隊員に伝わっておらず、放水により一気に化学反応を起こして爆発的に火災が広がり、消火がはかどらなかったらしいのです。

この工場、命を落とした人もいたのに、その後場所を移転し、社名を変えて事業を続けるらしいとの噂です(間違ってもこんなのは事業継続とは呼びません。念のため)。

ここから火災の根本原因がどこにあるのかを推し量ることができます。たまたま運が悪かった、不可抗力だったではすまされない根本的な原因。それは「うちの工場では火災の危険のあるマグネシウムを扱っているのだ」という防災意識がなかったのだろうということ。過去に2度も火災を起こしていたのに、それを教訓として自社の危機管理に取り込もうという考えがなかく、まさに喉元過ぎればなんとやらの姿勢だったのでしょう。

ここに述べたケースは少し極端なものですが、対岸の火事とばかりも言ってはいられません。BCPの講習会に積極的に参加する企業でさえ「消火器の使い方を知らない」「防災訓練をやったことがない」とおっしゃる方が少なくないのです。とても残念なことです。

火災の発見(危機の察知)

例によって、ここからはERPの3つの要素―危機の「察知」「伝達」「対処」に沿って考えてみましょう。まずはその一つ目、火災の「察知」についてです。

私たちがどんなときに火災に気づくかは、ほぼ知識やイメージとして頭の中にインプットされていると言っても過言ではありません。どこからかきな臭い匂いが漂ってきた、ドアの隙間から煙が入り込んできた、あるいは何かの作業中にいきなりドカンと火の手が上がるとか。火災もまた停電と同じように、そのシーンをイメージしてみると、個々の事業所や業務の現場によって、起こり方が多種多様であることが分かります。

ERPの察知は、単に感覚的・事後的に気づくだけでは十分とは言えず、"点"ではなく"線"の発想が必要だと前に述べました。その次に来る判断もしくはアクションを同時に連想するためには、あなたの会社で起こり得る(あるいはこれまで経験した)火災のパターンを可視化してみることをお勧めします。さっそく紙とペンを用意し、火災リスク発見ツアーを始めてください。

業務の性質を考慮しながら、典型的な発火の原因あるいは発火場所をいくつかピックアップしてみましょう。例えばオフィスでは給湯室や喫煙室、飲食業では厨房、工場では取り扱っている可燃性の原材料や熱を発する機械装置などが火災の原因となります。また、ふだん気づかない原因として、コンセントにほこりがたまっている、配線がむき出しになっている、絶縁体の劣化、静電気が発生しやすい、などもあります。工場ではヒューマンエラー(溶接や塗装、機械操作中の発火)やマナー違反(禁煙なのに煙草を吸う、火の後始末をおろそかにするなど)で起こることもあります。

そして、こうした原因は、目の前で発火して直接気づくこともありますが、もっと間接的なルートで気づくことも少なくありません。火災報知センサーなどのアラーム音や、テナントビルの警備室や危機管理センターなどの第三者を通じて火災からの避難を呼びかけられるといったことです。

関係者への通報(危機の伝達)

自社で起こり得る火災のパターンをある程度特定できたら、次はその発火を察知した直後からの「伝達」について考えてみます。火災の「伝達」は次の3方向に分けて考えることができます。

①発災現場に居合わせた従業員の対応
まず、火災の第一発見者はただちに周囲に火災の発生を呼びかけるとともに関係部署(総務部など)に伝達します。その方法は大声で周囲に呼びかける、携帯やスマホで通知する、火災警報器の非常ボタンを押すという動作かもしれません。

②防災担当部署の119番通報
次に防災担当部署(総務など)は、火災発生の通報を受けたらただちに119番に通報します。この時のために、予め伝達事項を箇条書きにまとめておくと、必要な情報の抜け漏れを防ぐことができます。

・会社名と住所(火災発生場所)
・有害物や可燃物の有無
・負傷者の有無(この時点でわかる範囲で)
・通報者の名前と携帯の連絡番号(折り返し連絡用) 


場合によっては発災現場に居合わせた従業員がその場から携帯電話で直接119番通報することもあるでしょう。このとき、どの部署、どの担当者が119番通報するにしても全員に通報すべき正しいやり方を周知させることが大切です。

以前、ある会社でボヤが発生したとき、社内にいた複数の人が同時に119番通報しました。ところが火災発生場所を正確に告げなかったために消防署が延焼の可能性のある大規模火災と勘違いし、何台もの消防車が駆けつけたというエピソードがあります。

③総務部門(防災担当部署)の避難指示(構内放送など)

火災の勢いが著しい場合、総務部担当はただちに構内放送やサイレンを通じてすべての従業員に緊急避難を呼びかけます。このあたりまでが緊急時の「伝達」と考えてよいでしょう。なお、一刻を争う場合はこれらが同時並行、あるいは順番が前後することもあります。必ずしも時間軸に沿って1本の流れの中に順序よくおさまるわけではありません。

避難手順と安否の確認(危機への対処)

緊急行動の3つ目、「対処」もまた、状況次第では「察知」や「伝達」とともに同時並行的に動かなければならない場合があります。火災に気づいてすぐさま119番通報する。消防車や救急車が駆けつけるまでの間、消火器やバケツリレーで火の勢いを食い止める、負傷者の応急手当を行う、などがこれに当たるでしょう。

一方、大勢の命を守るための緊急措置としては、「避難誘導」があるでしょう。避難を呼びかけたら、避難誘導係(すでに決まっている場合)はただちに従業員および訪問者等の避難誘導を開始します。これらをスムースに行うための内外の通報・報告先リストの完備もお忘れなく。ポイントは次の通り。

・避難集合場所の明示
・適切な避難ルート(非常階段を使用、エレベータは使用禁止など)
・負傷者や障がい者、外国人、地理不案内者への声かけとサポート、および安全な誘導
・避難集合場所での点呼(人数と逃げ遅れた人の有無の確認)
・上司および緊急対応責任者への報告

なお、日常の基本的な火災予防点検や防災訓練、防災教育に関する規定もERPの最後に加えておきましょう。ここでは火災予防点検について典型的なものを示します。

一つは「消火設備の点検」。社屋や工場の消火器や自動火災報知機、スプリンクラー等について、正常に動作するか、不具合がないかの点検を定期的に行っているか確認してください。

次に「避難方法・避難経路・避難集合場所の確認」。小規模な会社では、緊急時の避難方法を従業員まかせにしていたりするものですが、できるだけ足並みをそろえた安全な避難方法を確認しておくことが大切です。

「避難経路」については、その途上に障害物等が置かれていないかチェックしてください。「避難・集合場所」は、その場所が使えるかどうか定期的にチェックしましょう。いざ緊急避難しようとしたら避難場所が立入禁止区域になっていたということも現実にあります。

(了)