昆正和の『これなら作れる! 緊急行動の成否を分けるERP策定講座』
第3回:ERPは「3つの要素」と「情報力」が鍵!
BCP策定/気候リスク管理アドバイザー、 文筆家
昆 正和
昆 正和
企業のBCP策定/気候リスク対応と対策に関するアドバイス、講演・執筆活動に従事。日本リスクコミュニケーション協会理事。著書に『今のままでは命と会社を守れない! あなたが作る等身大のBCP 』(日刊工業新聞社)、『リーダーのためのレジリエンス11の鉄則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『山のリスクセンスを磨く本 遭難の最大の原因はアナタ自身 (ヤマケイ新書)』(山と渓谷社)など全14冊。趣味は登山と読書。・[筆者のnote] https://note.com/b76rmxiicg/・[連絡先] https://ssl.form-mailer.jp/fms/a74afc5f726983 (フォームメーラー)
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■緊急行動と格闘技は似た者どうし
緊急時の行動は、ある意味、格闘技の動作に似ています。相手の攻撃を交わしたり反撃したりする際の身体の瞬時の動きは、私たちの反射神経や本能に基づく場合もあるし、「相手がこう来たらこう動く」という予め想定した動きをなぞる場合もあるでしょう。また、万一パンチを食らったあとにそのダメージをなるべく軽減したり、少しでも早く態勢を立て直すためにできることを前もって研究しておく。これもまた格闘技の戦術に含まれるだろうと思います。
緊急行動にしても格闘技にしても、前もって望ましい動作を決めておこうと思ったら、私たちはある一つのことに注意しなければなりません。それは(頭で考えることも大切ですが)、まずは「イメージとして捉えなければ先が進まない」ということです。例えば、火災を予防するには、実際に現場に足を運んで火元や火災の起こりやすさをイメージすることから始まります。厨房からの出火か、配電盤内のショートか、敷地に積み上げたスクラップの放火か、どこからの出火が最も可能性が高そうか、といったことです。
危機をイメージすることの大切さは、災害の予防にとどまらず、緊急事態が起こった時の対処方法や復旧などすべてのフェーズについても言えることです。ちなみに欧米では、危機対応の3原則を「予防(Prepare)」「対処(Respond)」「回復(Recover)」と呼んでいるのを見かけます。ERPにおいても、基本的にはこの3原則に即して組み立てることは可能でしょう。ただし、このままでは全体からの視点になってしまい、少し具体性に欠けます。ERPの場合はもう少し部分的にクローズアップする必要がありそうです。
■ERPをカタチにするための3つの要素
ERPは「緊急対応」のための指針ですから、危機対応の3原則―「予防」、「対処」、「回復」のうち、主に「対処」の部分に焦点を当てたものでなければなりません。そうすると、ERPにおいては、図のような3つの要素を意識する必要があるでしょう。
欧米のERPのガイドラインやテキストに、この3つがきちんと原則的に明記されているわけではありません。けれどもおおよそERPと名の付くプランの解説、サンプルなどを参照すると、ほぼ例外なくこの3つの要素が踏襲されていることが分かります。否、踏襲というよりは、私たちが目の前の非常事態にどう対処するかを筋道を立てて考えたとき、あまりにも当然のこととして思いつくのがこの3つの要素なのだろうと思います。
「危機の察知」、「危機の伝達」、「危機への対処」。これら一つひとつのテーマに沿って検討すれば、比較的スムースかつスピーディに必要な手順や対策を決めることができるでしょう。とはいえ、はじめてERPのような危機対応プランに着手する会社では、何らかのナビゲーションがないと、心元ないことも確かです。以下では、これら3つの要素を検討する上での留意点やコツなどを、いくつか述べたいと思います。
■いつ気づくのか? 今でしょ!
まずは「危機の察知」。多くの人は、火災や地震などを思い浮かべながら、「危機の発生=危機の察知。それ以上でも以下でもない。終わり!」と考えるでしょう。けれども実際には、何か変だぞと直感的に感じ取っても、「まさかそんなことが…」と否定したり、その予兆をもみ消してしまうことも少なくありません。この結果危機が顕在化しても、対応が後手に回ってしまうケースが後を絶たないのです。これらのことに留意して、危機を認識するタイミングをどこにとればよいかを考えてみましょう。
次に「危機の伝達」。これもまたアタマで考えているようにはスムースにいかないのが現実。首尾一貫した緊急連絡網を持ってる会社も少なくありませんが、どんなタイミング、どんな手段で、だれに(またはどんなルートで)伝達するのかをいくつかの角度からシミュレーションしてみてください。大地震などは、たとえ緊急連絡を受けずとも以心伝心で動けるところがありますが、洪水や風評被害、個人情報漏えい被害などに気づいた場合、その伝達のタイミングが遅れたり、伝達内容が歪曲化、矮小化されたりすることも稀ではありません。
最後に「危機への対処」。これは2つの側面から検討することができます。1つは発災時に身を守るための行動手順です。火災や地震の時の一般的な対処手順は防災関係の本やホームページにたくさん掲載されていますから、比較的容易に組み立てることが可能です。なお、工場その他、危険をともなう業務では、業務固有の危険要因を特定し、安全な対処手順を確立しておきましょう。
もう1つの側面はいわゆる防災・減災対策です。ERPは行動手順を中心としたプランであることを考えると、防災・減災対策をここに組み込むのは少し場違いにも見えるかもしれません。しかしERPの多くは災害個別に策定するものであるため、防災・減災対策もそれぞれのERPに含めるのが自然であると筆者は考えています。
■大企業のCEOにも家族経営の親方にも必要なもの
ところで、ERPの3つの要素に基づく緊急行動が功を奏するか否かは、私たちの「情報力」にかかっていると言っても過言ではありません。意思決定に必要な情報をコンスタントに集めるとともに、事業を取り巻く内外の利害関係者に向けて適切な情報をタイムリーに発信する、双方向の流れのことです。
情報力が乏しいと、ERP対応の後の復旧活動のための準備や、業務を再開するために必要な諸々の段取りが後手に回ったり、事業中断によって迷惑をかけるかもしれない相手に状況を説明するタイミングを逸して、会社の信頼を損ねることもあります。
ERPにおいては、緊急時に収集、発信するのが望ましい情報の種類がある程度決まっています(拙著『あなたが作る等身大のBCP』参照)。これらは組織の規模の大小には関係がありません。たとえ家族経営の会社であっても、緊急事態が起これば、意識するしないに関係なく情報力が問われるのです。中核メンバーはもとより、最終決断をする会社のトップは、とくにこのことを意識して当たらなければなりません。
初動で適切な情報の収集と発信ができれば、この後の重要業務の継続や復旧活動を進めつつ、状況を見極めながらビジネス上の関係を正常化することは難しくはありません。危機を乗り越える力は、社長の「思い」と同じ方向に全社員がベクトルを合わせた時に発揮される組織力から生まれます。そのベクトルを合わせ、一人ひとりの力を事業継続力として結集するためにも、適切な情報を素早くみんなと共有できることが大きな鍵となります。
(続く)
(了)
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