仮に災害時の出社基準についてルール化されていないとしても、自らが危険と判断したら、無理に出社することは好ましくない。会社の安全管理者などに連絡をして、時差出勤や在宅勤務を要請してみるのも手だ。

会社としては、仮に暴風にもかかわらず出社を命じ、それにより万が一従業員が出社途中で死傷した場合には、安全配慮義務違反を問われる可能性もある。

すでに社内会議や顧客などと面談の予定が入っていれば、あらかじめリスケの可能性や連絡方法を伝えておくことも大切だ。

L(命を守る)→I(被害拡大の防止)→P(生活・財産の保護)


大きな事故や災害が起きた後には、まずは自身の安全を確保した上で、周辺状況を確認し、いかに二次災害に巻き込まれないようにするかを一人ひとりが考え、行動することが極めて重要になる。

このブログでも、何度か紹介してきたことだが、アメリカの消防では、緊急事態における行動の優先順を「LIP」という言葉で教えるという。LIPはLife Safety:生命の安全、Incident Stabilization:災害の安定化(被害拡大の防止)、Property Conservation:財産の保護、の頭文字をとったものだ。緊急時に、生命の安全を優先するのは当然だが、命が守れたら、それ以上、被害に巻き込まれないように事故現場を安定化させ、その上で、初めて財産の保護を行う。この優先順位が守られなければ、消防士自らが命を落とすことになりかねないため、くどいほどにこの基本を徹底させているのだろう。

しかし、これは消防に限った話ではなく、すべての人に共通する危機管理の鉄則と言ってもいい。災害時には、一時的に身構えても、一旦危機が過ぎされば、安全かどうかも確認せずに、すぐに普通通りの生活を始めようとする。一時的に災害そのものが大きな被害をもたらさなくても、その後に事態が一変することを我々はここ数年で何度も目の当たりにしている。ちょっとした交通機関の混雑でも、一歩間違えば雑踏事故など新たな災害を引き起こすかもしれない。2001年に起きた明石市花火大会歩道橋事故では雑踏事故により11人もの人が亡くなっている。かなり昔だが、1934年には京都駅で77人が死亡するという雑踏事故も起きている。

もちろん、起こり得ることすべてを想定することはできない。だからこそ、地震や台風の後は、すぐに油断せず、しばらくの間は、何かが起きるかもしれないと神経を尖らせることが必要になる。さらに言えば、自分が大丈夫でも、災害後の混乱により、大きな影響を受ける人たちがいることも忘れてはいけない。昨年の台風24号に伴う交通機関の大混乱により、目の不自由な方や車イスに乗った身体障がい者の方々は行き場を失った。駅は人であふれかえり、目の見えない方は杖もつけないで人込みに押され、車イスの方は、自分でも行けない方向に押し流され、いつまでも電車に乗れない状況に陥った。一般の健常者にとっては、大した影響がない災害でも、致命的な影響を受ける人々がいることをしっかり頭の中に入れておくべきだ。

(了)