災害救助法の読み方を解説しておきます。【熊本地震】(5月28日のFBより)

室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
2016/05/28
室﨑先生のふぇいすぶっく
室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
超長文です。
応急仮設住宅を「それを必要としている人」(その提供がなければ、過酷で非人間的な環境で生活することを余儀なくされ、結果として心身にストレスや危害が及ぶ恐れのある人)すべてに、災害救助法の弾力的運用により、提供していただきたいという願いを込めて、災害救助法の読み方を解説しておきます。
昭和22年に制定された災害救助法の23条により「応急仮設住宅」の提供が都道府県知事に義務付けられています。この災害救助法は、基本的生活権の保護と社会的秩序の保全を2大目的としています。ここでは、戦後間もなくの時期につくられた法律であること、基本的生活権の保護を眼目にしていることを、記憶にとどめてください。
仮設住宅の供与の対象については、救助法施行令9条で、都道府県知事(市町村に業務が委託された場合は市町村長)が、その適用の範囲を決めることになっています。ただ、昭和33年とそれを受け継いだ昭和40年の厚生次官通知で「住家が全壊、全焼または流出し、居住する住家がない者であって、自らの資力で住宅を得ることができない者」と基本方向が示され、それを受けて自治体が個別に決めています。ただ、法や施行令等で規定されたものではありません。ここでは、自治体の長が対象範囲を決める権限を持っていることを、記憶にとどめてください。
ここでいう全壊や半壊の定義は、昭和42年の被害認定統一基準あるいは現在の罹災証明の認定基準によるものでなく、全壊は建て替えないと住めないもの、半壊は修理をすれば住み続けられるもの、といったザクッとしたものでした。住宅が土石に埋もれた場合、敷地が崖崩れで削られて、住宅としての機能を奪われた場合も、住宅の全壊と同じ扱いをすることも、示されています。つまり、今の罹災証明の全壊等の判定にこだわる必要がないというか、こだわってはいけないということです。
戦後からしばらくは、国や自治体の財政が貧しいこともあり、被災者も親戚や知人の家に行く人が多かったこともあり、仮設はできるだけつくらないという姿勢でした。仮設の戸数の上限として、全壊家屋の3割とされていたのは、当時の時代背景ゆえのことです。資力を重視して極めて貧しい人しか入居を認めかったのも、時代背景を反映してのことです。ここでは、今はその時と時代が違うということを、記憶にとめてください。
ところが、阪神淡路大震災では、仮設住宅を希望する人すべてに提供するという方針を採用しました。この自治体が独自で入居資格を決められるということが、中越沖地震では半壊以上に資格を与える、東日本大震災では市町村によって入居資格が異なることになりました。
形式的な判定結果である全壊か半壊ではなく、被災者の実態を見て仮設が必要か必要でないかで判断するのが、正しいと私は思っています。
(了)
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