北朝鮮は、ウクライナ侵攻を続けるロシアと事実上の軍事同盟を結び「欧州の戦争」に援軍を送った。ロシア、ウクライナ双方がドローンなどハイテク兵器を使った戦闘を続ける中、貴重な実戦経験を得る機会となっている。ウクライナ問題が東アジア情勢にも波及した形で、日本政府は北朝鮮の軍事能力向上を警戒している。
 「北朝鮮兵のロシア派遣を含めたロ朝軍事協力は、ウクライナ情勢のさらなる悪化を招くのみならず、わが国を取り巻く安全保障への影響からも深刻に憂慮すべきだ」。林芳正官房長官は21日の記者会見で改めて懸念を示した。
 ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は2024年6月、平壌で会談し、有事の際の相互支援をうたう「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名。これを機に、弾道ミサイルや砲弾の輸出など補給面にとどまっていた北朝鮮のロシアへの軍事支援は、兵士派遣による「血の同盟」へと大きく踏み出した。
 米国や韓国によると、北朝鮮がロシアに送った兵士は1万人以上。昨年12月にはロシア西部クルスク州での戦闘に参加し、北朝鮮にとっては1953年の朝鮮戦争休戦後、初めての本格的な近代戦となった。
 自衛隊は米軍との合同軍事演習で高い評価を受けるが、安保の専門家は「最大の弱点は実戦経験がないことだ」と指摘する。実戦経験は軍隊の規律や練度の維持・向上、戦術面での進化・発展にとって最重要だとされるためだ。
 欧州で戦う北朝鮮兵については「消耗戦を強いられ、多数の死傷者が出た」との見方があるものの、日本外務省幹部は「今後の韓国への侵攻を考える上でも貴重な機会だ」と分析。防衛省幹部も「対ドローン戦の経験が得られるのは大きい。今後は北朝鮮もドローンの活用を本格化させるだろう」と語る。
 一方、ロシアからの見返りとして、北朝鮮は弾道ミサイルや潜水艦などの軍事技術の提供を受けているとされる。核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮に対し、日本は反撃能力(敵基地攻撃能力)整備など防衛力の抜本的強化を着実に進める方針。日米、日米韓の連携で抑止力・対処力の向上も図る。
 ウクライナ戦争を巡り、日本はトランプ米大統領が主導する停戦交渉の動きを注視する。トランプ氏がロシアに融和的な姿勢を明確にしているためだ。同氏は北朝鮮を「核保有国」とも呼び、米朝首脳会談にも意欲を示す。トランプ氏の言動が東アジアの安保環境を激変させる可能性もある。 
〔写真説明〕北朝鮮兵がロシア軍の装備を受け取っているとされる動画(ウクライナ戦略コミュニケーション・情報安全保障センターのX=旧ツイッター=アカウントより)
〔写真説明〕ロ朝の「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名し、握手するロシアのプーチン大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記=2024年6月19日、平壌(朝鮮通信)

(ニュース提供元:時事通信社)