2025/02/06
阪神・淡路大震災30年の光と影
神戸大学名誉教授/兵庫県立大学名誉教授 室﨑益輝氏
何が壊され、何が生まれ、そして何が変わったのか

室﨑益輝氏
むろさき・よしてる
神戸大学名誉教授・兵庫県立大学名誉教授
1967年京都大学建築学科卒業、71年同大学大学院工学研究科博士課程中退。京都大学助手、神戸大学助教授・教授を経て、98年同大学都市安全研究センター教授。その後、独立行政法人消防研究所理事長、消防庁消防研究センター所長を務め、2008年関西学院大学総合政策学部教授、17年兵庫県立大学減災復興政策研究科長。中央防災会議専門委員、日本災害復興学会会長、地区防災計画学会会長などを歴任。
日本社会に大きな衝撃を与えた阪神・淡路大震災から30年。政治・行政、産業構造、技術環境、あらゆる分野が反省を強いられ、安全を目指してさまざまな改善が行われた。が、日本社会にはいま再び、災害脆弱性が突き付けられている。この30年で何が壊され、何が生まれ、そして何が変わったのか。神戸大学名誉教授・兵庫県立大学名誉教授の室﨑益輝氏に聞いた。
近代都市の「安全神話」を崩壊させた地震
――あらためて振り返ったとき、阪神・淡路大震災は日本の社会にとってどのような災害だったのでしょうか?
30年前の1995年は、敗戦から50年の節目でもありました。その間、日本は総じて経済成長のなかにあったわけですが、それが安定成長へ変わろうというときに、発展の象徴たる近代都市を震災が襲った。いわば、戦後50年の歩みが問われた災害だったといえるでしょう。
経済成長は利便性・快適性の面で多くのメリットをもたらした半面、都市への機能集積を加速させ、過密と過疎を極端なかたちで具体化しました。その明暗がいよいよ鮮明になったとき、経済成長が止まり、同時に高齢化の扉が開いた。そうした時代を背負って発生したのが阪神・淡路大震災でした。
ですから、一つは経済を優先してきた社会の歪みが問われた。利便性や快適性の追求は悪いことではないですが、その裏で、安全性を軽視してきた面があったのではないか、と。代表例が木造密集市街地における倒壊と火災です。都市の近代化が進んだ半面、老朽化した木造が街の真ん中に過密に存在していました。

結果、主には高齢者ですが、圧死による犠牲者を多数出した。急速な都市開発、そして核家族化により、旧市街地に古い建物とお年寄りが取り残されていたからです。のみならず、家賃の安い木造アパートに住んでいた学生も多く亡くなった。まさに経済成長の恩恵からこぼれた人たちが集中的に襲われたといえます。
さらに衝撃だったのが、鉄とコンクリートに代表される近代構造物も倒壊したこと。力強い経済を象徴するS造・RC 造の高層ビル、大型の土木施設が無残につぶれた。横倒しなった阪神高速道路は「成長神話」「安全神話」の崩壊を示唆するに十分でした。


さかのぼること6年前の1989年、米・サンフランシスコで起きた地震でも、高速道路の倒壊がありました。このとき日本の技術者は「日本の技術力は高いから、こんなことは絶対に起こらない」といっていた。それが過信であったことが、皮肉にも証明されてしまったわけです。
――これらの反省から、土木・建築において技術基準の改定がなされました。
阪神・淡路大震災の最も大きな反省点がそこ。経済を優先するあまり、安全への配慮がおろそかになっていた、と。実際、多くの施工不良が明るみに出たほか、自然の力に対する想定が甘かったことが衆目の一致するところとなりました。
その反省に立ち、構造物の設計・施工基準や規定が見直され、耐震強化が図られたことは評価すべき点です。しかし、ものごとは光があれば影もある。基準が見直されたのはよいのですが、法律は原則的に遡及適用されません。それが、特に木造住宅において、膨大な数の「既存不適格」を生み出すことになりました。
こうした住宅は所有者が自発的に耐震補強をしないといけないということで、国は耐震政策を推し進めました。しかし、今日においても1981年以前の耐震基準、いわゆる旧耐震基準で建てられた住宅が数多く残っている。それが大きな問題となっているのはご承知のとおりです。
強化された行政とコミュニティーの防災
――改善は進んだ、しかしそこには光と影の両面がある、と。
耐震基準が見直されたのは間違いなくプラス。しかし、宿題も多く残されています。もちろん耐震に限りません。
大きな改善点の2番目としては、十分ではないにしろ、行政の防災体制の見直しが進んだこと。それまでは、防災、消防、防犯などを一括で所管している自治体が珍しくなかった。災害が起きると全職全庁で対応するのが常でした。
しかし阪神・淡路大震災以降、例えば「総合防災局」「危機管理局」といった名称で、緊急時の備えと対応に特化した専門部局が設置されるようになった。そして諸外国の先進的な仕組みを導入したり、自衛隊OBなどの経験者を採用したりして、防災力の向上を図ってきました。それは光の部分です。
ただ、いわゆるタテ割りが依然残っている。担当職員が2~3年でくるくると異動すれば、いかに専門部局でも経験やノウハウが蓄積されません。逆に専門部局ができたことが、経験やノウハウの横展開を妨げる要因になっています。
極端にいえば、災害時、専門部局の職員が不眠不休でがんばっているのに、他部局は定時に帰ってしまう。災害対応は危機管理担当者がやるという発想が強過ぎ、かえって組織的な対応の足かせになっています。新たに生じた弱点です。
――民間の動きの変化はどうですか?
コミュニティー防災が強化されました。それが大きな改善点の3番目です。典型的なのが福祉と防災の融合。神戸市もそうですが、阪神・淡路大震災を機に、日常的な福祉と防災を一体的に取り組むようになりました。

自主防災組織はそれまで、災害が起きたときの対応、例えばバケツリレーとか、緊急対応のみに重きを置いていた。しかし防災というのは、いわゆる災害弱者の把握や見守り、災害リスクの教育や訓練、いざというときの備えなど、日常的なサイクルで取り組まないと効果が出ません。そこに自主防災組織の欠点がありました。
このサイクルをまわすには、地域の住民だけでなく、企業や店舗、学校、保育園、高齢者施設などさまざまな組織の協力が必要です。そしてそれらの連携ができたとして、単に号令をかけるだけでは進みません。コミュニティーに責任と権限を与える必要があります。
このような動きを加速させたのが阪神・淡路大震災です。動きは2011年の東日本大震災以降さらに大きくなり、地区防災計画というかたちで結実しました。コミュニティーが責任をもって防災に取り組む体制が各地にできたことは、プラスに評価すべきことです。
実際、能登半島地震でも、地区防災計画をつくっていたコミュニティーが数多く活躍している。倒壊した家屋の下敷きになった人を救い出す、大勢で助け合いながら高台に避難するなど、日頃の防災活動が生きて住民が助かった事例がいくつも報告されています。
ただ、そこも影の部分があり、何かというと高齢化です。コミュニティー防災の仕組みはできたけれど、高齢化が進み、自治会がお年寄りばかりになっている。参加する人も減り、仕組みはあっても担い手がいない事態に直面しています。
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