サバイバルマニュアルのようなBCPが時々あるのはなぜ(イメージ:写真AC)

BCPで規定した計画と現実との間のギャップを、多くの企業に共通の「あるある」として紹介し、食い違いの原因と対処を考える本連載。第2章では「BCPの実効性、事業継続マネジメント、発生コスト」のなかに潜む「あるある」を論じています。前回は初動・災害対策本部について言及しましたが、今回は事業継続戦略の「あるある」を取り上げます。

第2章
BCPの実効性、事業継続マネジメント、発生コストの「あるある」

(5)BCPの実効性

②事業継続戦略
・いのちだいじに(中堅・金融業・経営部門)

命大事に。もちろんです。

担当者「まだ完全ではありませんが当社のBCPです」

「けっこうボリュームありますね」

担当者「ご指摘があればお願いします」

「拝見します」

ページをめくっていくと、地震が起きた場合の身の安全の確保の方法、火災を発見した場合の行動、自衛消防隊の組織図と活動内容、消火器の使い方、各拠点の建物の避難経路、広域避難場所の地図、AEDの使い方、人工呼吸の方法、怪我や骨折の対処法、トリアージタグの説明、備蓄食品の調理法、泥水のろ過の方法、食べられる植物と食べてはいけない植物、食べられるキノコの見分け方などなど、詳細に、図解入りで記載されています。

どんどんどんどんページをめくっていくうちに、いま何が起こっても自分は生き残ることができる自信がわいてきました。ただ、こんな都心に食べられる植物やキノコがどれだけ生えているのか少し心配になりました。

しかし、そんな自信とは裏腹に、なかなかBCPがはじまりません。不安になって表紙に戻ってみましたが、タイトルは「事業継続計画書」とあります。目次も確認しましたが、事業継続についてという項目もありました。

ページをめくり続け、結局、最後の数ページにありました。しかし、その内容を強引に要約すると「状況によって柔軟に対応する」程度の数行の記述しかありませんでした。

「指摘というより、そもそもBCPというものはですね…」

この事例は、防災活動や救助活動にかかわる内容が盛り沢山な状態で、肝心のBCP部分がチープだったというものです。スタートダッシュを頑張りすぎて息切れしてしまったのかもしれませんし、防災計画の延長でBCPをつくればいいという指南を参照してつくったBCPがそのまま見直しされることなく残っているのかもしれません。

さらに、もう一つの重要な原因があると考えます。それは、BCPの目的に「人命が第一」と書いてしまっているからです。実際、いくつかの企業のBCPでこれを見てきましたし、その多くの場合、BCPの目的の1行目にこのことが書いてありました。

防災とBCPの混同が生じる(イメージ:写真AC)

確かに、人命第一は大事です。「はじめに人命ありき」という企業の姿勢を従業員に知らしめたい気持ちも十分に理解できます。しかし、BCPの目的に人命を優先すると書いてしまうから、まずそこから始めようとしてしまい、防災との混同が生じてしまうのです。