「特定受託事業者にかかる取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス新法」といいます)が2023年4月28日に成立しました。施行日は、「公布の日から起算して1年6カ月を超えない範囲内において政令で定める日」とされていて未定ですが、遅くとも2024年秋頃には施行予定です。そこで、今回は、フリーランス新法が制定された背景や法律の概要について解説します。

1 フリーランス新法制定の背景

フリーランスとは、特定の企業等や組織に所属せず、また従業員を雇用せずに一人で企業等との間で請負契約や業務委託契約を締結して業務を受注する者のことをいいます。近年の働き方の多様化に伴い、フリーランスとして働く人は、増加傾向にあります。しかし、フリーランスは、原則として労働基準法上の「労働者」とは認められず、労働関係法令の適用がありません。そのため、取引先の企業等との関係において、労働者に比べて弱い立場に置かれます。また、取引条件が不明確で、報酬の支払いが遅延したり、一方的に減額されたりするなどのトラブルも少なくありません。

このような状況を踏まえ、2020年7月17日に閣議決定された「成長戦略実行計画」に基づき、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が策定されました。フリーランスガイドラインでは、事業者とフリーランスの取引について、独占禁止法、下請法、労働関係法令の適用関係を明らかにするとともに、フリーランスと取引を行う事業者が注意すべき事項や法令違反となる行為類型が具体的に示されました。

さらに、2022年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」に基づいて、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備することを目的として、フリーランス新法が制定されることとなりました。

2 フリーランス新法の概要

この法律は、立場の弱いフリーランスを保護することを目的として、フリーランスと取引をする企業等に対して、取引内容の明確化や60日以内の報酬支払い、ハラスメント対策などフリーランスの就業環境整備に係る措置を義務付けるものです。この法律の適用対象となる当事者や取引、企業等に義務付けられる具体的措置の概要は、次のとおりです。

(1)適用対象

フリーランス新法の適用対象は、「特定受託事業者」に該当するフリーランスと「特定業務委託事業者」に該当する企業等との取引です。フリーランス同士の取引や消費者が取引相手の一方となる、いわゆるB to Cの取引には適用されません。

■対象となる当事者と取引の定義


①「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないものをいう。

②「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である個人及び特定受託事業者である法人の代表者をいう。

③「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することをいう。

④「特定業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、従業員を使用するものをいう。

※ 「従業員」には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まない。

 

(2)取引の適正化

 特定業務委託事業者(以下「委託事業者」といいます)は、特定業務受託者(以下「フリーランス」といいます)に業務を委託する場合は、次の事項について書面又は電磁的方法により明示しなければなりません

①給付の内容

②報酬の額

③支払期日

④公正取引委員会規則が定めるその他の事項