2021/03/03
インタビュー
東日本大震災10年 災害対応の課題と解決策
インタビュー
東京大学生産技術研究所 加藤孝明教授

加藤孝明氏
3.11から10年、日本は自然災害に次々に襲われた。避難所も、さまざまな経験を経てかなりの改善が見られる。例えば2月13日、宮城・福島両県で最大震度6強を観測した地震では、相馬市の避難所がテントを使ってプライバシーを確保していた。一方、昨年9月の台風10号では、定員に達した避難所が500カ所超。首都圏では避難所に住民が入り切れず、別の地域に移動せざるを得ない事態も発生している。東京大学生産技術研究所の加藤孝明教授は、公共施設を前提とした避難所は、需要に対して圧倒的に少ないと指摘。民間の「災害時遊休施設」の活用や〝災害時自立生活圏〟を増やして需要を減少させることが必要だと訴える。
https://www.risktaisaku.com/feature/bcp-lreaders
例えば、パチンコ店を避難所に活用する
――加藤先生が提唱されている「災害時自立生活圏」構想についてお聞きできればと思います。東日本大震災から10年がたち、この間、日本人の意識もさまざまな自然災害を経験することで、例えば早めに避難所に行くといった変化が見られるようになりました。その上で、今後どのような取り組みを進めていけば良いとお考えでしょうか。

日本の防災の根本問題は需要に対して資源が圧倒的に少ないことです。例えば、小学校の運動会では、お昼の時間に子どもたちと家族で体育館に入れば、いっぱいになり入り切れない。そのことから考えても、災害時の避難所は被災世帯が全員入れるわけがない。

このアンバランスを解消するには①避難所などの資源を劇的に増やす②避難所に入る需要を劇的に減らす――しかない。政策的には「避難を徹底」と言われ続けてきましたが、これは需要を膨らませる一方です。さまざまな災害を経験してきたことで、これまで見落としていた需要が丁寧に掘り起こされたわけですが、そこには本質的な需要と、ただ需要を膨らますだけのものがあります。
まず、資源に関しては公共施設などが前提になっています。これでは需要が膨らめば膨らむほど、アンバランスが拡大する。公(おおやけ)の資源だけを利用するという形から脱却することが必要です。
では、災害時の資源として何が使えるかと言うと、一つは、災害時に使わなくてもよい「災害時遊休施設」。分かりやすい例としてパチンコ店がある。大きな駐車場があります。ユーザーが高齢化しているのもあって、アメニティーが充実していたり、子どもの遊ぶスペースもあったり、快適な避難所としての機能がかなり付いている。資源として活用できる。
パチンコ店は場所にもよりますが、非常用発電装置をつけているところもあるんです。当たりが出ている時に停電が起きると、お客さんとトラブルが生じる可能性があり、それを避けるために停電対策しているところがあるそうです。
広い駐車場を開放して、快適な車中泊ができる例えば、パチンコ店を避難所に活用する場所として提供すれば、ある都市でのケーススタディーによれば公的な避難所の2~3割に相当する人を収容できるとの試算結果もあります。避難所に入らなくても車中泊でなんとか過ごせる人たちが来ることによって、避難所に入る需要を減らしていくことに当然つながります。
一方で、全体の需要を減らすことも必要です。例えば、老朽住宅に暮らす1人暮らしの高齢者でペットを飼っている場合は、ペットと一緒に過ごせる避難所が必要ですから、これは本質的な需要です。しかし、高級車に乗って大型犬を飼っているような、自助で何とかできる人は避難所に入る必要はない。こうした本質的ではない需要の掘り起こしは止める。社会的弱者への対応は極めて重要ですが、それ以外の不要不急の需要を掘り起こすのを止めることで、需要の拡大を抑制していく。
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
-
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
-
-
-
防災教育を劇的に変える5つのポイント教え方には法則がある!
緊急時に的確な判断と行動を可能にするため、不可欠なのが教育と研修だ。リスクマネジメントやBCMに関連する基本的な知識やスキル習得のために、一般的な授業形式からグループ討議、シミュレーション訓練など多種多様な方法が導入されている。しかし、本当に効果的な「学び」はどのように組み立てるべきなのか。教育工学を専門とする東北学院大学教授の稲垣忠氏に聞いた。
2025/04/10
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方