気候変動の影響で災害による犠牲者数はどれだけ増えるのか
Increasing risk over time of weather-related hazards to the European population
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より複数のコンサルティングファームにて、事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。一般社団法人レジリエンス協会 組織レジリエンス研究会座長。BCI Approved Instructor。JQA 認定 ISO/IEC27001 審査員。著書『困難な時代でも企業を存続させる!! 「事業継続マネジメント」実践ガイド』(セルバ出版)
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本連載の 2017 年 3 月 6 日付けの記事(注 1)にて、「気候変動への適応」(adaptation to climate change)という観点から自然災害にアプローチしている例を紹介させていただいた。自然災害に対して気候変動がおよぼす影響については様々な研究が行われているが、それらの中から今回は、欧州委員会の共同研究センターに所属するグループが発表した論文「Increasing risk over time of weather-related hazards to the European population」(時間の経過における、欧州の住民に対する気象関連災害リスクの増加)(以下「本論文」と略記)を紹介する。
本論文では、気象関連災害による犠牲者の数が、気候変動によって今後どのように変化するかが試算されている。試算方法は、「気候変動に関する政府間パネル」(Intergovernmental Panel on Climate Change)から提案されているフレームワークに基づいている。
具体的には、まず「災害にさらされる人口」(people exposed)を
災害にさらされる人口 = 災害リスク × 人口
として見積もり、さらに災害による死者数を
死者数 = 災害にさらされる人口 × 脆弱性
= 災害リスク × 人口 × 脆弱性
として計算している。気候変動によって災害リスクが高く(発生頻度や災害の深刻度が高く)なれば死者数が増加し、災害に対する備えが進んで脆弱性が低くなれば死者数は減るという、シンプルな式であるが、過去の災害に関するデータ(注 2)などから災害リスクや脆弱性の変化を推測するのは、非常に困難な作業であったと思われる。
まず図 1 は、2011年から2100年までを約30年ごとに区切って、気象関連災害による死者数が今後どのように変化するかを試算した結果である。不確定要素が多いため振れ幅が大きく見積もられているが、気象災害による犠牲者が今後増加傾向になる試算結果が示されている。
本論文では災害の種類ごとの試算結果も示されており、図2および3は、河川の洪水および沿岸洪水による、死者数および災害にさらされる人口の試算結果である(縦軸のスケールがそれぞれ異なるので注意されたい)。過去の災害で水害による被害が多いことは、本連載でこれまでに紹介した複数の調査からも分かっているが(注 3)、今後さらに増加傾向になることが見込まれている。
これらのデータは、従来以上の災害対策の実践とともに、気候変動の緩和のための活動(例えば CO2 排出量の削減や森林伐採の抑制など)が求められていることを、より切迫感を伴って示していると言えよう。
本論文は欧州委員会の予算で行われた研究の成果なので、研究対象が欧州に限定されているが、過去の洪水による被害がより大きいのはアジア地域である。したがって世界規模で考えると、気象関連災害による犠牲者の増加は、もっと速いペースで進むかもしれない。このような問題認識のもとに、災害対策や気候変動対策に取り組んでいくべきであろう。
■ 報告書本文の入手先(PDF 9 ページ/約 1.5 MB)
http://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(17)30082-7/fulltext
注 1)「気候変動に対してレジリエントな国はどこ?/ノートルダム気候変動適応指標(ND-GAIN)」(2017/03/06) http://www.risktaisaku.com/articles/-/2463
注 2) ミュンヘン再保険の「CatNetSERVICE」データベースなどが用いられていることが、本論文に記載されている。
注 3) 次の各記事で紹介しているので参照されたい。
- 『過去20 年間、世界で最も影響をおよぼしている自然災害は「洪水」』(2017/02/06) http://www.risktaisaku.com/articles/-/2355
- 『2017 年上半期に発生した自然災害の概観』(2017/08/01)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/3410
注 4)Forzieri G, et al. Increasing risk over time of weather-related hazards to the European population: a data-driven prognostic study. Lancet Planet Health 2017; 1: e200-08.
(了)
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