2019/10/29
ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイント
ローマのレジリエント戦略
ローマのレジリエント戦略では次の4つの柱が掲げられました。
【レジリエント戦略4つの柱】
① 効率的な市民サービスを提供する都市
② ダイナミックでユニークな都市
③ オープンで包容力のあるサポーティブな都市
④ 豊かな自然を守る都市
① 効率的な市民サービスを提供する都市
ここで掲げられているアクションの目玉は、レジリエンスオフィスの創設です。各所に散らばっている行政システムを統括できるようなオフィスが必要だと訴えています。行政内部で情報共有がうまくなされていないことを最大の障壁ととらえています。新しいコミュニケーションプラットフォームの開発、行政サービスの内部プロセスを透明化してトラッキングできるようにする、などのアクションを定めています。
あわせて、スマートシティの取り組みも進める計画です。その一環として、地図情報データベースおよびオープンデータの取り扱いに関するガイドラインの作成を計画しています。公共WiFiの整備も進める予定です。
② ダイナミックでユニークな都市
ローマが保有するユニークな文化的価値を高めていこうというのが狙いです。文化遺産を守りながらも、市役所内で文化促進を担うセクターを再構成すること、ステークホルダーとの関係性を強化すること、季節ごとの文化イベントの企画を掲げています。また、公共図書館にイノベーション促進のためのプログラムを設置することを計画しています。
域内には放棄された建物や土地があるため、そられを“ローマファクトリー”なるビジョンのもと再活用する予定です。“ローマファクトリー”は、イノベーションとゼロビューロクラシー(煩雑な行政手続きをなくす)をキーワードに掲げた、経済と社会の発展を目指す新しいビジョンです。このビジョンに基づいて、建物建設の規制を柔軟にしたり、市内の交通システム(トラムやバス、ケーブルカー)の見直しを進めていくことにしています。
この戦略の下では、ローマ市の域内で伝統的に行われてきた農業を守り、さらに盛り上げようという、農業都市を目指すためのアクションも打ち出しています。
③ オープンで包容力のあるサポーティブな都市
市民の多様性を尊重する街づくりを目指しています。特にスポーツを通じたソーシャルインクルージョンプログラムに力を入れようとしています。ここでのソーシャルインクルージョンには、従来ローマに住んでいる人々だけではなく、難民も含まれます。
高齢化の進展が進む一方で、若年層は2008年のリーマンショックを契機として就労の場を探すことに苦労しています。市民全体に活力がなくなっているのが現状であるので、その打開策を模索しています。パブリックスペースをより多くの市民団体やNGOに活用してもらうための指標や、新しい宅地開発プログラムの作成を計画しています。ソーシャルインクルージョンについて、学校教育から考え方を学ぶための取り組みも進めています。
④ 豊かな自然を守る都市
既に域内の6割を超える緑地を守ることと、水資源の見直し、再生可能エネルギーの活用を推進しています。域内交通網をより持続的なものとするための二酸化炭素排出削減の取り組みや、リサイクルを進めて廃棄物をできるだけ出さないためのアクションを定めています。
実行性の高いアクションプラン
ローマのレジリエント戦略の特徴は、ストレス要因の特定の際に、行政の内部、ガバナンスに目を向けている点だと思います。主要インフラや、気候変動への対応、災害対応など、多岐にわたるテーマに関するステークホルダーとのワークショップなどを通じて、自分たちが抱えている課題は何かを明らかにしてきました。このアプローチが、レジリエント戦略に記載されている各アクションプランの実現性をより高いものとしています。各アクションには、責任部署と、実現のために協働が必要なステークホルダーの定義が紐づいています。
さらには、それぞれのアクションに対して、ベンチマークとなる他都市の取り組みを丁寧に調べてレジリエント戦略の文書の中でケースとして紹介している点が秀逸だと思います。強いていうならば、今回の戦略は行政のビューロクラシー対策に主眼が置かれているあまり、ショック要因(短期的課題)である災害対応について深堀りされていない点が残念ですが、まずは必要なステークホルダーとの連携を強化していくという方向性は正しいと思います。今後のローマ市の災害対応に注目したいと思います。
(了)
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