※写真はイメージです。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2013年1月25日号(Vol.35)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。役職などは当時のままです。(2016年7月12日)

優先順位付けと具体シナリオ

■費用対効果から見た対策 
火山噴火の規模には、小規模で周辺地域に影響を及ぼさないものから、数千年から数万年に一度発生して地球規模で広範囲に被害をもたらすような大規模なものまで様々なケースがある。さらに、火口の位置、噴火の様式、継続時間、噴出物などによっても引き起こされる災害の形態は異なる。

このため、事前対策を完璧に準備することは費用対効果的に現実的ではない。こうした火山噴火の脅威に対して、宇都宮大学の中村洋一教授はリスクマネジメントの手法を用いて対策を講じることを提唱している。

■緊急性に応じた優先順位
文部科学省によると、アメリカでは、USGS(米地質調査所)が市民や行政に対して火山災害の警報発令に責任を負っている。そのため、USGSの火山ハザードプログラムによって、米国内にある169活火山のうち、現在噴火の危険性のある約半分は基本的な地震観測のリアルタイム監視が行われ、いくつかは近代的な装置や方法で十分に監視されている。しかし、いくつかの火山の監視観測は不十分であったり老朽化したり、基本的な監視観測さえ行われていないという。 

これらの不十分な観測体制を鑑み、USGSハザードプログラムでは、火山観測所と一緒に、2005年から火山早期警戒システム(NVEWS:National Volcano Early Warning System)の導入を進めている。

ただし、一度にすべての活火山に対してNVEWSを導入することは困難なため、対策の優先順位を付け、緊急性の要するものから予算を確保して整備を進めているという。その優先順位を特定するためにUSGSでは火山噴火のリスク評価を行っている。 

具体的には、火山ごとに災害を引き起こす要因の発生確率を評価するとともに、社会基盤などの脆弱性なども考慮して被災時に考えられる損害値(影響度)を算出し、その総和として「脅威評価点」を導き出す。その上で、脅威評価点と現況の観測体制とのギャップを明らかにして、早期警戒システム導入の優先度を決定しているのだ。

日本では、気象庁の火山噴火予知連絡会が「おおむね1万年以内に噴火した火山、および現在活発な噴気活動のある火山」を活火山と2003年に定義し108活火山を指定し(現在は110)、さらに過去の火山活動履歴から、A、B、Cの3ランクに活火山を分類した。

しかし、これらは発生確率に基づくもので、噴火の規模や社会的な影響度などは考慮されていなかったため、現在は防災の観点を導入して、常時観測を進める活火山を47指定した。 

自然災害へのリスク評価を行うには、自然現象そのものの特質を解析した上で、災害ごとの規模や確率、脆弱性、損失価値などを分析して評価することが求められる。それに基づき、リスク管理が提案される。費用対効果を考え、事前対策によってリスクを防止したほうがよいのか、事後の対応によって被害を軽減させる方が有効なのか、あるいは、どうにも対策が講じられそうにない超巨大災害ならリスクを保有し続けるかなど方針を決め、対策を講じることになる。