「計画運休」が決定すると電光掲示板にも詳細が流される

「空振り」恐れない

「計画運休」を実施する明確な基準はない。「見直した」と言ったほうが適切かもしれない。最初に「計画運休」を実施した2014年は進路や気圧などの一定の目安となる基準を設けていたが、台風の進路や影響が想定外になることがあることに加えて、大きな苦い経験から基準によらず判断することにした。それは2015年7月の台風11号のこと。台風通過後も降雨がやまず、東海道線を走行する電車が高槻駅付近で規制値により緊急停車。長時間にわたって停車したため、体調不良の乗客が発生し救急車も出動する事態となった。これ以降は基準に頼らず、より精緻な気象情報を基に総合的に判断することとした。

JR西日本の関西エリアでの「計画運休」は2014年10月の台風19号の他、2018年9月の台風21号と24号の3例。とりわけ2018年に関西の私鉄や関東の鉄道会社でも「計画運休」を実施。「当社の取り組みや考え方が関西を中心に社会全体に浸透してきているのかもしれない」と中條氏は分析。こういった各鉄道会社の動きを踏まえ、管轄官庁である国交省で「計画運休」に関するとりまとめが行われるまでに至った。

JR西日本では2005年4月に死者107人を出した福知山線脱線事故以降、とりわけ安全面を強化。災害対策はハード面にも注力し、できる限り運行ができるように努める一方で、2015年台風11号時の駅間停車とそれによる車両閉じ込めも教訓に、いわゆる「空振り」を恐れない安全第一の姿勢をとっている。「定時運行を使命とする公共交通機関として『計画運休』は苦渋の決断だが、災害激甚化への対処として必要に迫られている」と中條氏。利用者の不要不急の外出を回避させ、関西人の安全や働き方の意識を大きく変えたJR西日本の「計画運休」は、新たな公共交通機関の安全へのあるべき姿勢を示し、理想像を変えた成功例と言えるだろう。

(了)