2018/11/01
防災・危機管理ニュース

批判記事を寄稿きっかけか
トーマツは10月30日、「グローバルビジネス記者勉強会」を開催。ディレクターの茂木寿氏が、サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害事件をめぐって、サウジ政府のムハンマド・ビン・サルマーン皇太子(以下ムハンマド皇太子)の首謀が疑われている問題で、サウジ政府やムハンマド皇太子の国際的信用の失墜が中東情勢や世界の政治経済に及ぼす影響について解説した。
ジャマル・カショギ氏はサウジ王室との関係の深い武器商人の家系。国内でジャーナリストとして活動していた。サルマン国王のもと、2016年4月からムハンマド副皇太子が大胆な社会・経済改革計画「ビジョン2030」を発表した後、政策に対する鋭い記事を書くようになった。2017年6月ムハンマド氏が皇太子に就任し実質的権限を握るのと同時に米国に渡り、コラムニストとしてワシントン・ポストなど数紙に意見記事を寄稿していた。
トルコ人女性との再婚のため、10月2日にトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館を訪ねたのを最後に行方不明となった。のちにトルコ当局が館内で殺害されたことを同定した。
サウジ外相は当初、事件について政府やムハンマド皇太子の関与を否定していたが、トルコ政府が事件に関する証拠データを世界の報道陣や米政府に提供し、事件の詳細が明らかになるにつれて、事件の関与否認を覆し、サウジ当局が皇太子側近を含む合計18人の容疑者を逮捕した。トルコ当局は事件の首謀者を明らかにするため容疑者全員の送還を求めているが、サウジ当局は拒んでいる。
海外企業の進出・投資マインド冷え込む
茂木氏は今回の事件について、サウジ政府やムハンマド皇太子が国際的信用を失ったことは中東情勢や世界に与える影響は大きいとみる。まず8月には「ビジョン2030」が掲げる目標達成のカギとなる国営石油会社の株式上場を断念し、計画の実効性が心配されていた。
さらに事件捜査が進展するなかで10月23~25日に開かれた「未来投資イニシアチブ(FII)」では、世論の批判を受けて世界の経済要人が相次いで欠席する事態となった。日本のメガバンク・三菱UFJ銀行も首都リヤドにサウジ初の支店を開設し、同国に進出する日系企業の支援に踏み出したところだった。
茂木氏は日本企業への影響について「現状で事業活動に直接影響を受ける企業は少ない」としながら、「脱石油依存経済を掲げて積極的な海外企業進出や海外投資を奨励してきた同国にとって、海外企業の進出・投資マインドを冷え込ませる結果となっている」とする。
政権不安定化で衝突リスク広がる
さらに今回の事件の責任は逃れられたとしても、2030年に向けた改革案「ビジョン2030」が行き詰まりをみせるようなことがあれば、指導者としての責任問題が生じる可能性もある。
サルマン国王は82歳と老齢で、茂木氏は「主導権が揺らぐなかで病弱な国王に何かあれば、大きな内紛に発展する可能性がある」と危惧する。またサウジの影響力が落ちることで相対的にイラン・トルコの影響力が高まれば、それらを制するためアメリカが強硬な政策手段をとる可能性があり、「中東情勢のバランスが崩れれば中東各地での衝突リスクはさらに広がることになる」としている。
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
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