2018/10/25
AIブームとリスクのあれこれ
■ロボットが人間を失業させる時代
ここでは「人間型ロボット」のことは忘れていただき、すでに工場や倉庫などで稼働している多様な形態のロボットを中心に考えてみましょう。イギリスのPricewaterhouseCoopers(PWC)という企業が昨年発表したPDF資料には、興味深いことが書かれています。この資料によると、2030年までに米国では38%の仕事がオートメーション化のリスクに、ドイツでは最大35%、イギリスでは約30%、日本では21%がこのリスクにさらされていると言います。
■PWCの資料
https://www.pwc.co.uk/economic-services/ukeo/pwcukeo-section-4-automation-march-2017-v2.pdf
また、これによればロボットやAIによるオートメーション化が最も進む分野は運送業や倉庫業、製造業、小売業とのこと。イギリスの場合、非大卒者の最大46%が、そして大学生以上になると約12%が機械にとって代わられてしまうのだそうです。
一方、民間シンクタンクのマッキンゼー・グローバル・インスティテュートも、昨年似たようなレポートを発表しています。2030年までに46カ国にわたって労動の3分の1が機械に代替されてしまうのです。ただし中には容易に機械に任せられない仕事もある。例えば、エンジニアや医療サービス・医療介護、科学者、会計士、専門技術者、教育者、マネージャなどの仕事です。また、芸術家やエンターテイナーのような「クリエィティブ」な職種も含まれることは言うまでもありません。
このレポートによると、オートメーション化によって生産性は向上し、経済成長につながる。そしてそれがもう一つの影響、つまり機械に取って代わられた何百万人もの労働者の経済的影響(失業に伴う消費の低迷やGDPの低下のことなどを指すのでしょう)を埋め合わせることができるだろうと推測しています。果たしてどうなんでしょうか? みなさんは額面通りにこうした予測を受け入れることができますか?
■「まさか!」の時の原因究明は一筋縄ではいかない?
ロボットやAIに代替されてしまう労働者の割合や職種を見て、少し暗い気持ちになった人もいるでしょう。しかし歴史的な裏付けを持たない未来予測というのは、しばしば「過大に評価」されがちであることも否定できません。
例えばこんなケース。ある時、工場ラインの製品に傷が頻発する事故が発生した。調べてみたら(人間の)従業員による手順ミスだった。この場合、本人への聞き取り調査や手順の再現などを通じてトラブルの原因を突き止め、再発防止策を講じることはむずかしくありません。
ところが、AIで制御するロボットがこの種の事故を起こしたらどうなるでしょうか。ロボットに聞き取り調査を行うことはできません。診断用のパソコンを接続して原因を調べようとしても、AIは自分で学習する能力がありますから、アルゴリズムを追跡しても容易には原因がわからないかもしれません。
このようなケースは他の分野のAIでも発生する可能性があります。例えば不審者を見分ける機能を持つ警備ロボットや、高齢者や身障者の介護ロボットが、人間の尊厳にかかわる誤認をしないとも限りません。人間の監視員や介護スタッフならば一言謝まれば済むことでも、AIロボットは自分であやまちや責任を認めて謝罪することはできませんから、原因を究明し、再発防止策を講じるまでにはかなりのコストと時間がかかるでしょう。結局「何かトラブルが起こったときは人間の方が柔軟に対処できる」という話になる。
ヒューマンエラーという言葉があります。これは「人間は間違いを犯す動物である」という前提のもとで発展してきた研究分野ですが、その間違いをおかす人間が、絶対に間違いをおかさないAIロボットを作れるという考え方には矛盾があります。上に述べたようなミスや事故の発生は避けられません。インシデントが何度か起これば、これを利用する側としては懐疑的にならざるを得ない。世の中の仕事がどんどんAIロボットに代替されていき、ハローワークに失業者があふれるという可能性は、けっして高くはないだろうと筆者は考えています。
AIブームとリスクのあれこれの他の記事
おすすめ記事
-
なぜ製品・サービスの根幹に関わる不正が相次ぐのか?
企業不正が後を絶たない。特に自動車業界が目立つ。燃費や排ガス検査に関連する不正は、2016年以降だけでも三菱自動車とスズキ、SUBARU、日産、マツダで発覚。2023年のダイハツに続き、今年の6月からのトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキの認証不正が明らかになった。なぜ、企業は不正を犯すのか。経営学が専門の立命館大学准教授の中原翔氏に聞いた。
2024/11/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/11/19
-
ランサム攻撃訓練の高度化でBCPを磨き上げる
大手生命保険会社の明治安田生命保険は、全社的サイバー訓練を強化・定期実施しています。ランサムウェア攻撃で引き起こされるシチュエーションを想定して課題を洗い出し、継続的な改善を行ってセキュリティー対策とBCPをブラッシュアップ。システムとネットワークが止まっても重要業務を継続できる態勢と仕組みの構築を目指します。
2024/11/17
-
-
セキュリティーを労働安全のごとく組織に根付かせる
エネルギープラント建設の日揮グループは、サイバーセキュリティーを組織文化に根付かせようと取り組んでいます。持ち株会社の日揮ホールディングスがITの運用ルールやセキュリティー活動を統括し、グループ全体にガバナンスを効かせる体制。守るべき情報と共有すべき情報が重なる建設業の特性を念頭に置き、人の意識に焦点をあてた対策を推し進めます。
2024/11/08
-
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2024/11/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方