富士山噴火を想定し、首都圏での広域的な降灰被害への対策を議論してきた内閣府の有識者検討会(座長=藤井敏嗣東京大名誉教授)は21日、報告書をまとめた。混乱を避けるため、できる限り自宅での生活を継続することを基本と位置付けた。一方、降灰量が30センチ以上となる場合、降雨により重みが増して、木造家屋が倒壊する可能性があるとして、避難を呼び掛ける。内閣府は今後、対応指針を策定し、自治体や事業者に備えを促す。
 検討会は、4段階のステージに分けて整理。降灰量30センチ以上をステージ4とし、同3~30センチで被害が比較的大きい場合と小さい場合、同3センチ未満の場合を、それぞれステージ3~1と区分した。報告書作成で使用したモデルケースは、中央防災会議の作業部会が2020年に示した被害想定を踏まえたもので、福島、山梨、長野、静岡各県を含む11都県で降灰が見込まれる。
 火山灰は人命にすぐに影響を与えるわけではないが、のどや気管支の痛みといった健康被害が出る懸念がある。また、交通に支障が生じるほどの視界悪化も想定される。そこで、降灰量30センチに届かないステージ3~1では、不要不急の外出や車の運転を控え、自宅での生活を呼び掛ける。降灰は2週間以上続くケースがあるため、日頃からの食料や水などの十分な備蓄が重要と指摘した。
 降灰が30センチ以上となるステージ4では、家屋倒壊による命の危険があるほか、電気や水道といったライフラインの途絶が想定されることから、原則として降灰の影響が少ない地域に避難。30センチに満たない場合でも、人工透析患者や介護を必要とする人は早めの避難を勧める。
 噴火が始まると、気象庁は1時間ごとに6時間先までの降灰の範囲と量の予測を発表。市町村には、実測の降灰量に予測を加味して、避難呼び掛けに関する早めの判断を求める。
 報告書では、火山灰の仮置き場を事前に選定する必要性を提起。埋め立てや海洋投棄など最終処分の手法も例示した。除去が必要とみられる火山灰は約4億9000万立方メートルで、交通網の維持のため優先的に除灰が必要な道路と鉄道の分は約3100万立方メートルと見積もった。
 藤井座長は記者会見で、広域降灰について「ほとんど誰も経験していない事象。備えも国民の理解も進んでいない」と指摘。「噴火が始まってからでは対策できない。平時から準備をしてほしい」と呼び掛けた。 
〔写真説明〕首都圏での広域的な降灰被害の対策を議論する有識者検討会で座長を務めた藤井敏嗣東京大名誉教授(右)=21日午前、東京都千代田区

(ニュース提供元:時事通信社)