地下鉄サリン事件を巡っては、時間の経過とともに、当時の記憶や被害者のカルテなどが失われつつある。厚生労働省は4月以降、資料を後世に引き継ぎ、新たな化学テロの脅威に備えるため、カルテの電子保存や、当時治療に当たった医療関係者の口述記録の作成に乗り出す。
 同省は2019年、研究班(代表・奥村徹日本中毒情報センター理事)を設置し、事件に関する医療記録の保存や活用方法などの検討を開始。被害者のカルテについて「貴重な歴史的、知的財産であり、保全し整理、活用につなげることは極めて重要だ」と総括した。
 研究班が被害者の治療に当たったとみられる39医療機関を対象にアンケート調査をしたところ、回答のあった14機関のうち、記録を保存しているのは6機関だった。法令上、医療機関の記録保存は5年とされており、すでに廃棄したケースが多いとみられる。
 厚労省は事業費として約440万円を予算計上しており、個人情報に配慮した上で、紙の医療記録を電子化し保存する。事件当時の対応について医療関係者から聞き取りも進め、まとまれば公表する方針だ。
 同省の担当者は「医療従事者や被害者が高齢化している。記録を後世に残すことが大切で、今後の化学テロ対策に生かしていきたい」と話している。 
〔写真説明〕地下鉄日比谷線築地駅前で、救急車に運び込まれる被害者=1995年3月20日、東京都中央区

(ニュース提供元:時事通信社)