パレスチナ自治区ガザで続くイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘を巡り、慶応大の錦田愛子教授(中東政治)は時事通信のインタビューで、休戦交渉は行き詰まっており、ネタニヤフ首相が表明するガザ南部ラファ侵攻は「避けられないだろう」と指摘する。衝突は7日で半年を迎えるが、さらなる長期化に懸念を示した。
 ―休戦がいまだ実現していない。
 ハマスは人質解放を「切り札」にイスラエル軍の完全撤退などを条件として要求している。ネタニヤフ政権は人質解放で成果を示せなければ、国民の非難を抑えられないが、治安確保のため完全撤退は受け入れ難い。双方が譲歩できず、交渉は難航している。
 ―首相はラファ侵攻を表明している。
 ネタニヤフ氏のラファ攻撃への決意は固い。ラファには100万人以上の避難民が身を寄せ、地上侵攻となればさらに多くの犠牲者が出る。米国をはじめ国際社会は批判しているが、ネタニヤフ氏は国民に対し、ガザを完全制圧したと示す必要もある。ただ、人質解放の見込みなしにラファを制圧しても、イスラエルには意味がない。住民を退避させる場所の確保にも時間がかかり、作戦開始が遅れている。
 ―国内では首相退陣要求デモが起きている。
 人質を奪還できない政権の責任を問う声が高まる中、ネタニヤフ氏の汚職を巡る裁判も再開され、同氏の立場は危機的な状況にある。
 ユダヤ教超正統派の兵役免除を巡り、連立政権内でも溝が深まっている。与党の中で超正統派は免除継続を求めて連立離脱をちらつかせるが、中道右派は対立している。世論の支持が高いガンツ前国防相に加え、ネタニヤフ氏が率いる右派リクードからも離脱者が出れば、政権は崩壊するだろう。
 ―「戦後」に向けた動きはあるか。
 ヨルダン川西岸を統治するパレスチナ自治政府は、国際経験の豊富な首相が率い、ガザ出身者を多く起用した新内閣を発足させた。休戦交渉を仲介する米国の、「改革された自治政府」にガザ統治を任せたいという意向に可能な限り応えた形だ。ただ、自治政府とハマスとの関係は良好とは言えず、停戦交渉の中で新内閣への移行が順調に進むかは不透明だ。
 一方、イスラエルはコストの観点から長期にわたりガザに軍を駐留させるつもりはないが、必要な際にはいつでも軍を展開できる状態を保つことを望んでいる。西岸の自治区で治安管理を名目に急襲作戦を続けるように、ガザの「西岸化」を目指していると考えられる。 
〔写真説明〕錦田愛子 慶応大教授(本人提供)

(ニュース提供元:時事通信社)