平成30年7月豪雨で被災した岡山県倉敷市真備町 (撮影:編集部)

激甚災害指定を受けた「平成30年7月豪雨」にて被害を受けられたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興をお祈りいたします。

筆者は子供時代の10年間を倉敷市で過ごしました。真備地区から数キロしか離れていない鶴の浦という地域に住み、高梁川を毎日眺めて小学校に登校していました。そのため、今回の倉敷市真備町の洪水は、他人事には思えませんでした。

よく言われるように、岡山は自然災害が少ない土地です。しかしながらこのたびの豪雨で氾濫した小田川は、歴史的に小規模な氾濫を繰り返してきたことが記録に残っています。

氾濫の歴史がわかっていながら、なぜこれほどの犠牲者がでてしまったのか?と思うと残念でなりません。

先日、国土交通省に残っている小田川の水位変化のデータを見ていて、「もしかすると命を救う余裕が5時間ほどあったのではないか?」ということに気づきました。

この方法は、河川に氾濫危険が迫ったときの一般的な避難方法になると考えたので、本稿を書いた次第です。

(1)ハザードマップは正しかった

倉敷市では、各水系で発生しうる災害リスクに対して、各種のハザードマップを発表しています。

■ハザードマップ(倉敷市防災危機管理室)
http://www.city.kurashiki.okayama.jp/1870.htm

中でも河川氾濫が発生した真備町のハザードマップは、実際の水没エリアと比較すると、ほぼ予測が正しかったことが判明しました。

写真を拡大 出典:左)倉敷市防災危機管理室ハザードマップ 右)国土地理院発表 平成30年7月豪雨による倉敷市真備町周辺浸水推定段彩図

ご覧の通り、予測エリアと水没エリアがほぼ重なっています。そしてこのエリアは、ウィキペディアによれば、それほど遠くない過去に数回の河川氾濫が起こっています。

■小田川 (高梁川水系)

1972年7月中旬、昭和47年7月豪雨で氾濫し、流域の岡山県部分のうち3.96km2が浸水、床上625棟・床下322棟の建物被害があった。1976年9月の昭和51年台風第17号で、同じく3.89km2・床上873棟・床下1034棟が水に浸かった。1979年・1981年・1985年・1998年にも洪水による浸水被害が生じた。

(出典:Wikipedia)


歴史の経験と正確極まりないハザードマップがあったにもかかわらず、死者61名(2018年7月25日現在)を出してしまったのです。

では、真備町の住人のみなさんが助かる方法はなかったのでしょうか?

方法はあります。私は、河川の氾濫危険が迫ったときに命を救える方法が、たったひとつだけあると考えています。

(2)「川の防災情報」で命を救え!

みなさまは国土交通省が運営している「川の防災情報」というホームページをごぞんじでしょうか?

出典:「川の防災情報」国土交通省 https://www.river.go.jp/kawabou/ipTopGaikyo.do

トップページには左側に現在の降雨状況、右下には日本の模式図が表示され、地方ごとに彩色されています。それぞれの色は洪水予報のレベルを表しており、たとえば黒は河川氾濫が発生した地域があることを表しています。
個別の河川の状態も表示できます。

矢掛観測所の河川断面図(出典:「川の防災情報」国土交通省)

 

このような断面図で、水位の状況がわかりやすく表示されます。このスクリーンショットを撮ったときは、氾濫が発生してしばらく時間が経ち、水位が下がり始めたときのものです。

水位の変化は、グラフで見ると変化がよりわかりやすいです。

矢掛観測所の降雨グラフ(出典:「川の防災情報」国土交通省)

たとえば、今回の氾濫をもたらした小田川の水位変化は、実際はこのようでした。グラフは、7月6日24時を過ぎたあたりで氾濫危険水位を大きく超えて、このあたりで氾濫が始まったことを示しています。

このグラフは、データの欠測があったため飛び飛びになっています。そこで私は、欠測となっている値を前後の中間になるように推定したうえで、水位が急に上がりだした7月6日19時頃から氾濫が始めった同日夜半までをグラフ化してみました。

それが次の図です。この図には、気象庁が発表した洪水予報と、自治体である倉敷市が発表した避難情報もマッピングしてあります。この図を見ると、今回の氾濫に至った時間経緯がわかります。

(3)避難できたかもしれない5時間

自治体は河川の水位という「結果」を確認して避難情報を出します。そのため、今回のケースでも、倉敷市は「氾濫危険情報」を確認して、避難指示を発令しています。

このケースでは、不幸にして真備町北側地区に避難指示が発令されたのは、氾濫が確認されるわずか4分前でした

■「避難指示、決壊把握4分前 西日本豪雨で倉敷真備町」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018071001002377.html

この事実は、自治体の避難情報を待っていては、「逃げ切れない=命に危険が及ぶことがある」ということを示しています。では、氾濫危険は事前に察知できないのでしょうか?

このグラフの19時からの、線の傾きに注意してください。この場合ではほぼ直線のグラフになっており、「このまま降り続くと23時ぐらいに水位ははん濫危険水位を超えて5mになるかもしれない」という推測が可能です。

平成30年7月6日 倉敷市小田川の推移変化(「川の防災情報」をもとに著者作成)

われわれ一般人が手にできる情報はこれだけです。つまり「川の防災情報」で水位変化のグラフを観察して、このままだとxx時頃に氾濫する可能性がある、と判断するしか方法はありません。

このグラフを見ると、5時間ほど避難できる余裕があったのではないか?と慚愧の念に囚われます(私自身、小田川の水位変化のグラフを見たのは、氾濫発生のニュースを知ってからでした)。

後に倉敷市長が「水位計があれば違った」という旨を発言していますが、なぜ国土交通省の情報を使わなかったのか。倉敷市の災害対策本部はどこから情報を入手していたのか。疑問を覚えます。

■小田川の支流、水位計なし 倉敷市長「あれば違った」(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASL7P5J3LL7PPTIL01G.html

以下、河川氾濫から命を守る方法を簡単にまとめます。

① 天気予報を確認する
大雨特別警報など、異常な降雨の可能性があることを知る。
②「川の防災情報」を確認する
降雨が始まったとは、自宅近くの川の水位変化を定期的(最低でも1時間おき)に確認する。
③ 「氾濫する予想時刻」を予測する
グラフの傾きから、氾濫危険水位を超える「氾濫する予想時刻」を自ら設定する。
例:今回の真備町の事例では、たとえば「7日24時」と設定する。
④ 「避難の所要時間」を設定する
自分で設定した「氾濫する予想時刻」までに安全に避難できるよう、避難所・高台への避難完了のための時間を見積もる。
例:「老人を連れて逃げるので2時間」と設定。
⑤ 「避難開始の最終期限」を決める
次に、見積もった「避難の所要時間」を「氾濫する予想時刻」から引き算して「避難開始の最終期限」を決める。
例:氾濫する予想時刻「7日24時」から避難の所要時間「2時間」を引いて、避難開始の最終期限を「7日22時」とする。
⑥ 避難準備を始める
その最終期限が来る前に、十分な余裕を持って避難できるよう、避難準備を開始する。
例:避難開始の最終期限が22時だからといって、そこまで待つ必要はない。危険だと判断したら、一刻も早く避難を始めること。


最後に、河川氾濫で亡くなる方が、日本でこれ以上増えないことを祈ります。

(了)

「BCPのSOS」
第三者の目線でBCP診断をする「セカンドオピニオンサービス」
http://bcpsos.rescueplus.jp/