2018/07/04
激甚化する水害への対策を!
企業は危機意識持ち対策を
「江東5区のみでなく、東京全体でどれだけの人の広域避難が必要なのか、まずこの把握が大事」と語るのは東京都総務局総合防災部計画調整担当課長の濱中哲彦氏(濱の字は右のうかんむりの下に眉で目の部分が貝)。そもそも避難対策を立てるのは区市町村だが、洪水などで広域避難が予測されることから都では2014年の地域防災計画風水害編で、区市町村間や他県との広域自治体としての都の調整機能を盛り込んでいる。この調整機能を果たすためにも、まずは東京全体で広域避難が必要な人数の規模感が重要であることを濱中氏は指摘する。もし広域避難を実行する際の移動手段について交通事業者に依頼するにも、近隣県に避難先を確保してもらうにも、域外避難者の数がわからないと調整が難しいからだ。
インパクトが大きい3月に発表された都策定の高潮による浸水想定も含め、内閣府との検討会ではこの域外避難者の数を様々な被害予測を基に精緻に検証していくことが大事になってくる。広域避難の課題は避難場所と移動手段。避難場所については近隣県に公共施設の提供を依頼すること、移動手段については鉄道事業者など交通機関や警察との調整が必要となる。「近隣県に避難先を確保するにも、移動手段の検討にも、とにかく避難者数の規模感を示す必要を実感している」と濱中氏は語る。
広域避難の際、公共の施設に頼らず自主避難先を確保しておくことが望ましい。その必要性の周知も大事だが、どのくらいの人が確保できているかを知るのは困難である。避難者の数に加え、細かい住民の備えや発災後の避難行動を把握するといった情報整備も見落とせない点だ。
民間企業がとるべき姿勢について濱中氏は「水害に対する危機意識を持ってほしい」と呼びかけ。もし浸水想定区域に企業が所在する場合は休業措置も含めたBCP(事業継続計画)を作ることや、事業所の安全な場所への移転も求めている。濱中氏はさらに、「浸水想定区域に住んでいる従業員を把握し、もし従業員が広域避難の対象になった際、職場が安全な地域にある場合は自主避難先として受け入れることを認めてほしい」としている。近隣県も含めた公的施設を利用する避難者を減らす取り組みが必要なためで、ほかの災害時の帰宅困難者対策にもつながる備蓄などの取り組みによる共助が期待される。
■関連記事
複数自治体の洪水広域避難計画策定手順
http://www.risktaisaku.com/articles/-/5145
東京23区の3分の1が最悪浸水も
http://www.risktaisaku.com/articles/-/5571
政府と東京都など、水害広域避難検討会
http://www.risktaisaku.com/articles/-/6407
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
激甚化する水害への対策を!の他の記事
- 浸水区域従業員を職場で受け入れが必要
- 水害に脆弱な東京、企業はBCP策定を
- 政府と東京都など、水害広域避難検討会
- 内閣府、水害・土砂災害対策の手引き
- 対策による水害リスク軽減見える化へ
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方