企業は危機意識持ち対策を

「江東5区のみでなく、東京全体でどれだけの人の広域避難が必要なのか、まずこの把握が大事」と語るのは東京都総務局総合防災部計画調整担当課長の濱中哲彦氏(濱の字は右のうかんむりの下に眉で目の部分が貝)。そもそも避難対策を立てるのは区市町村だが、洪水などで広域避難が予測されることから都では2014年の地域防災計画風水害編で、区市町村間や他県との広域自治体としての都の調整機能を盛り込んでいる。この調整機能を果たすためにも、まずは東京全体で広域避難が必要な人数の規模感が重要であることを濱中氏は指摘する。もし広域避難を実行する際の移動手段について交通事業者に依頼するにも、近隣県に避難先を確保してもらうにも、域外避難者の数がわからないと調整が難しいからだ。

インパクトが大きい3月に発表された都策定の高潮による浸水想定も含め、内閣府との検討会ではこの域外避難者の数を様々な被害予測を基に精緻に検証していくことが大事になってくる。広域避難の課題は避難場所と移動手段。避難場所については近隣県に公共施設の提供を依頼すること、移動手段については鉄道事業者など交通機関や警察との調整が必要となる。「近隣県に避難先を確保するにも、移動手段の検討にも、とにかく避難者数の規模感を示す必要を実感している」と濱中氏は語る。

広域避難の際、公共の施設に頼らず自主避難先を確保しておくことが望ましい。その必要性の周知も大事だが、どのくらいの人が確保できているかを知るのは困難である。避難者の数に加え、細かい住民の備えや発災後の避難行動を把握するといった情報整備も見落とせない点だ。

民間企業がとるべき姿勢について濱中氏は「水害に対する危機意識を持ってほしい」と呼びかけ。もし浸水想定区域に企業が所在する場合は休業措置も含めたBCP(事業継続計画)を作ることや、事業所の安全な場所への移転も求めている。濱中氏はさらに、「浸水想定区域に住んでいる従業員を把握し、もし従業員が広域避難の対象になった際、職場が安全な地域にある場合は自主避難先として受け入れることを認めてほしい」としている。近隣県も含めた公的施設を利用する避難者を減らす取り組みが必要なためで、ほかの災害時の帰宅困難者対策にもつながる備蓄などの取り組みによる共助が期待される。

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(了)

リスク対策.com:斯波 祐介