2016/05/24
誌面情報 vol55
廃棄物リスクが会社を危機に陥れる
Q. なぜこうした問題はなかなか無くならないのでしょうか?
私は、こうした廃棄物の不祥事を引き起こす要素の1つとして、リサイクル至上主義の問題があるのではないかと考えている。
つまり、ゴミの処理というのは、リサイクルが一番環境にいい、リサイクルしないことは悪であるという考え方が、いつの間にか、技術的に怪しいリサイクル製品を生み出したり、需要と供給のバランスがあわない無駄なリサイクル品を発生させてきた。しかも、2008年のリーマンショック前というのは、ある種の環境ブームで、企業は多少コストをかけてもリサイクル活動をすることによって企業イメージを上げるくらい機運が高まっていたが、リーマンショックを境に、企業はリサイクルにあまりお金をかけられないようになってしまった。
リサイクルは、普通に燃やす・埋めるという処理方法と比べるとお金がかかる。したがって、廃棄物処理業者に「リサイクル費用を下げろ、下げないなら別の業者に変えるぞ」とプレッシャーをかけるような風潮になってしまった。
こうした結果、廃棄物業者は無理をして、それが積み重なり経営状況が悪化し、最終的に不法投棄や不法処理に及ぶという悪循環の構図になってしまったのではないか。
Q. 産廃業者の経営姿勢も問われるべきではないでしょうか?
経営理念も大きな問題だが、どのような業者でも、経営状態が良く利益が出ていれば不法処理とか不法投棄に手を染めるようなことは考えないはずだ。
その意味では、産業廃棄物処理業者の選定で気を付ける点として、その業者の経営状況がどうなのかといったところをしっかりと見ていくということが大事なのかもしれない。また、適正に処理するための方法が取られているのか、その処理方法に相応しい予算を充てているかという点も検証する必要性がある。
Q. 排出する企業として考えるべき点は?
いろいろあるが、こうした議論をすると、必ず「法律では何も言われていないから…」という言葉を聞く。つまり、必要以上のことをやるために手間やお金はかける必要がないという考え方である。
ところが、2012年5月に発生した利根川水系ホルムアルデヒド検出事件では、法を満たしている企業が賠償責任を受ける事態に発展した。事件は、浄水場の水質検査で水質基準を大きく上回るホルムアルデヒドが検出され、その原因が、ある化学メーカーが処理業者に委託した廃液に含まれる「ヘキサメチレンテトラミン」という物質が塩素と化学反応を起こしてホルムアルデヒドを生成したと推測された。しかし、廃棄物処理法では、ヘキサメチレンテトラミンという物質は有害物質にあたらず、水質汚濁防止法の排水規制も対象外だった。したがって、法律違反にはならなかったが、実際には2億9000万円の損害賠償請求をされた。違法ではなくても、損害賠償請求が発生するのが廃棄物事件の怖いところだ。
Q. 廃棄物処理、あるいは環境問題において共通の特徴のようなものはありますか?
問題が顕在化するまでに長い時間を要する。因果関係も証明しづらい。例えば川や海の魚が死んで浮いてきたような場合、どこそこの工場排水が原因だと推測できたとしても、その因果関係を特定するのは難しい。さらに、発覚した頃には環境や健康被害が拡散してしまっているという収束の難しさが挙げられる。
被害が広域化するため、賠償金も高額になるケースが多い。例えば、2005年に発生した化学メーカーの土壌埋め戻し材による不法投棄事件では、株主3人が当時の取締役ら21人に489億円の賠償請求を行い、大阪地裁により元取締役3人は、485億8400万円の支払いを命じられた。法律上の罰金もある。こちらは最高3億円だ。
そして、ひとたび問題が起きれば、SNSの普及によって情報は瞬く間に拡散していく。マスコミの過剰報道などによって、一夜でブラック企業のイメージがついてしまうのも環境問題の特徴かもしれない。
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