2016/05/24
誌面情報 vol55
支援物資供給上の課題
熊本地震で、大きな課題となったのが物資の支援だ。政府は4 月16日の本震を受け、自治体からの要請を待たず、非常食90 万食や子ども用紙おむつなどを「プッシュ型」で被災地に届けると発表した。が、被災地にはなかなか必要とされる支援物資が届かないなど問題は長期化した。元陸上自衛隊将補(陸将補)で日本大学危機管理学部教授の吉富望氏に解説していただいた。
残念なことに、熊本地震における被災直後の支援物資供給の場面では5年前の東日本大震災と同様、被災者は支援物資の不足と遅配に耐え、自治体は支援物資を供給できずに苦悩した。本稿では、2つの大災害が突き付けている被災直後の支援物資供給の課題を探ってみた。
熊本地震における支援物資の供給要領
災害時における支援物資の供給要領には「プル型」と「プッシュ型」がある。プル型は支援物資のニーズ把握が可能な被災地へ、ニーズに応じて物資を供給する基本的な支援物資の供給要領であり、プッシュ型はニーズ把握が不可能な被災地へ、ニーズ予測に基づき物資を供給する要領である。プル型は必要な支援物資を無駄なく提供できる利点がある一方、被災直後の混乱の中ではニーズ把握に時間を要し、結果的に支援物資の供給が遅れる欠点がある。一方プッシュ型は、ニーズが把握できない場合でも迅速に支援物資を提供できる利点があるものの、受け手側の自治体が被災直後の混乱のために物資受け入れが滞ったり、ニーズ予測が外れた場合に支援物資の余剰・不足が生じたりする欠点がある。東日本大震災では基本的にプル型で終始したが、熊本地震では発災直後にプル型が実施され、2日後には政府主導でプッシュ型に移行し、その4日後には政府がプル型に戻した。
誌面情報 vol55の他の記事
おすすめ記事
-
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/12/24
-
-
-
能登の二重被災が語る日本の災害脆弱性
2024 年、能登半島は二つの大きな災害に見舞われました。この多重被災から見えてくる脆弱性は、国全体の問題が能登という地域で集約的に顕在化したもの。能登の姿は明日の日本の姿にほかなりません。近い将来必ず起きる大規模災害への教訓として、能登で何が起きたのかを、金沢大学准教授の青木賢人氏に聞きました。
2024/12/22
-
製品供給は継続もたった1つの部品が再開を左右危機に備えたリソースの見直し
2022年3月、素材メーカーのADEKAの福島・相馬工場が震度6強の福島県沖地震で製品の生産が停止した。2009年からBCMに取り組んできた同工場にとって、東日本大震災以来の被害。復旧までの期間を左右したのは、たった1つの部品だ。BCPによる備えで製品の供給は滞りなく続けられたが、新たな課題も明らかになった。
2024/12/20
-
企業には社会的不正を発生させる素地がある
2024年も残すところわずか10日。産業界に最大の衝撃を与えたのはトヨタの認証不正だろう。グループ会社のダイハツや日野自動車での不正発覚に続き、後を追うかたちとなった。明治大学商学部専任講師の會澤綾子氏によれば企業不正には3つの特徴があり、その一つである社会的不正が注目されているという。會澤氏に、なぜ企業不正は止まないのかを聞いた。
2024/12/20
-
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方