しかしながら、個人デバイスの業務利用は、公私の区別が不明確になり易く、企業・組織の情報セキュリティ上好ましくないアプリケーションやサービスが利用されることによる問題もあります。特に、アンドロイドデバイスについては、アプリケーションを装ったマルウェアが急増しており、アプリケーション制御がしにくい個人デバイスでは、その被害が発生しやすく、個人デバイスを起点としたマルウェアによる汚染が企業・組織内のシステムや他の端末に拡散するリスクが高まっています。この他にも、カメラ機能やマイク機能の利用、企業・組織内システムや業務用コンピュータとの接続同期など、利用方法によっては、様々な問題が発生する可能性があることは否定できません。 

BYODには、このような情報セキュリティ上の問題の他にも、労務管理上の問題を含め、様々なリスクがあることから、企業・組織が従業員に個人デバイスを業務に利用させる場合には、企業・組織の管理下において、ルールを定めて利用させることが必要とされます。 

しかし、2013年1月にIDCJapan株式会社が公表した「2013年国内BYOD利用実態調査」では、1割前後の企業が個人デバイスの業務利用を黙認していました(図表4)。また、2014年3月にITproActiveが公表した「モバイル機器の業務利用実態調査」によれば、個人デバイスを業務に利用するBYODは43.2%である一方で、BYOD利用者のうち22.2%の勤務先がBYODを禁止しています。こうした調査結果をみても、企業・組織の管理が及ばないところで行われているBYODは、少なくないことが分かります。

(4)個人デバイスの私的利用の問題 
従業員が個人デバイスを就業時間外に私的利用することについては、そもそも企業・組織の管理範囲外の問題であると考えられます。しかし、近時では、従業員がTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを私的利用する際に、不適切な発言や画像を投稿して「炎上」を起こし、企業・組織に対する批判が殺到して不祥事へと発展することで、企業・組織の評判(レピュテーション)が毀損されてしまうケースが少なくありません。 

また、従業員が業務上知り得た情報をうっかりソーシャルメディアに書き込んでしまったり、職場や出張先で撮影した写真を投稿することで、企業・組織の内部情報が外部に洩れてしまうことも少なくありません。 

さらに、「ソーシャルハラスメント」の問題もあります。「ソーシャルハラスメント」とは、ソーシャルメディアを通じて行われる職場のハラスメントのことで、「ソーハラ」とも言います。以前には聞かれなかった言葉ですが、ソーシャルメディアの利用者が急増する中、従業員のソーシャルメディアの私的利用に伴う新たな労務問題として、テレビや新聞などのメディアでも取り上げられることが多くなっています。 

このように、従業員の個人デバイスの私的利用をめぐっても、企業・組織として看過できない事態が発生しています。 

インターネット新時代の労務リスクマネジメントについては、以上のような問題・背景があることを前提として、次回からは、クラウドサービスの導入、スマートデバイスの業務利用、ソーシャルメディアの活用などに伴って発生する新たな労務リスクやその対策について、具体的に説明します。