2030年はどのような未来に(Adobe Stock)

気候変動による2030年最悪のシナリオを描くこの連載。今回は、「移行リスク」について説明する。これは自然災害や異常気象といった物理的な被害ではなく、社会が脱炭素に向かうことに伴う、規制強化などのリスクが該当する。金融安定理事会(FSB)により設立された、企業の気候変動に関する情報開示を推し進める気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言によると「移行リスク」として、「政策・法規制に関するリスク」「テクノロジーリスク」「市場リスク」「レピュテーションリスク」の4つを定義している。本稿ではこれら4つに「金融」や「人材」に関する影響を加えて2030年を予測する。

■政策・法規制に関するリスク

2030年、各国政府は半ば常態化した気候災害を少しでも緩和すべく、カーボンプライシング(炭素税や排出量取引)をはじめとする規制や政策に乗り出している。企業はコンプライアンス上の課題、炭素税、排出削減目標に取り組みながら、刻々と変化する規制を乗り越えていかなければならないが、2030年時点でも遅々として対応や対策は進まない。自社の気候リスクとその影響について適切な情報開示を怠った企業は、株主から訴えられる。迅速な対策や対応を怠れば法的な措置や風評被害、金銭的な罰則につながるだけでなく、企業のコスト増を招いて収益を圧迫し、競争力が損なわれていく。

■市場リスク

マーケットの反応はいかに(Adobe Stock)

2030年、どの企業にとっても気候災害による損害と損失は身近な脅威であり、スローガンではなく中身のある持続可能な経営の実現が喫緊の課題となっている。この認識は産業全体に広がっているが、抜本的な解決策が見えてこず、大企業から中小零細企業に至るまで頭を抱えることになる。かつては強靭であったグローバル・サプライチェーンは気候危機の増大でその脆さを露呈する。気候変動に関連したインシデントは今や世界同時多発的に発生し、自社のビジネスにどう影響するかも不透明。企業は手探りの状況の中でコストの増加、資源不足、生産の遅延、市場価格の変動に対処しなくてはならない。

■テクノロジーリスク

テクノロジーリスクは、低炭素社会への移行を目指すテクノロジーの急速な進歩に乗り遅れるリスクである。再生可能エネルギー、蓄電池、エネルギー効率の改善、炭素回収などの分野で技術発展があっても導入できるのか。現状維持なら既存の技術や設備が陳腐化し、新技術の導入にコストや課題が発生するのは避けられない。ただし2030年時点でも、日本は化石燃料や原発との共存も図りたいと考えており、グリーンテクノロジーへの投資や企業支援は限定的だ。これらの対応は遅々として進まず、多くの企業が世界とのギャップに苦しむことになる。