子どもや高齢者を巻き込む

防災訓練や避難訓練の形骸化以前に、住民が参加しないという根本的な問題もあります。参加を促す第一歩として何が必要でしょうか。

矢守:クロスロードは小・中学生も気軽にできるカードゲームですから、参加を呼びかけやすいと思います。カードさえあれば準備の必要もありませんし、雨の日でも大丈夫です。学校やデイサービスで取り入れているところもあります。

西澤:これこそ、まさに正解のない難問です。東日本大震災の印象が強いため、今はまだ防災の意識が高いので、呼びかければ防災訓練などへの参加者も集まるかもしれません。しかし、どうしても防災の意識は年月の経過とともに低下します。「天災は忘れた頃にやってくる」と言った寺田寅彦氏ではありませんが、被災経験の風化にどう抗えばいいのか。福祉活動と防災活動は、相性がいいので、矢守先生がご紹介されたように、年配の方のために、デイサービスでクロスロードをやるのは非常にいいアイデアだと思います。また、お祭り、運動会などのイベントを利用して地域全体を巻き込む仕組みなどを考えられれば有効かもしれません。そして、そのような機会に、小学校や中学校単位で、PTAなどにも加わってもらうようにしたら、子どもから大人まで参加しやすい環境が生まれるかもしれません。

津波避難訓練の様子(高知県四万十町興津地区にて)(写真提供:京都大学防災研究所教授 矢守克也氏)

矢守:四万十町興津地区では高齢者の家庭の家具固定を中学生に担ってもらえないかと取り組みはじめました。今は大学院生が手伝っていますが、地域での継続的な助けが必要です。先ほど述べた初期消火訓練や土のう積みと同様に軽視されがちな家具固定ですが、下敷きになってしまえば、この地域ではすぐに津波が来るので致命的です。でも、実際はあまり普及していません。意識調査などをすると、家具固定が進まない理由として、「面倒だから」「費用がかかる」などがよく挙がっていますが、調べてみると、おじいちゃんやおばあちゃんは、家具固定をしたくてもできないのです。高齢者が重たいタンスを持ち上げて耐震マットを敷けるでしょうか。足腰の弱った方が天井近くに金具を打ち付ける作業をできるでしょうか。

しかし、手伝ってくれる人がいれば大丈夫です。中学生なり元気のいい人が手助けする。家具固定の用品は地元のホームセンターの協力を得てそろえてもらう。地域で取り組めば大量に仕入れられるので割引も期待できます。ホームセンターの宣伝にもなります。自主防災組織の若者が中心となって支える仕組みです。

四万十町は自主防災組織に補助金を出すことを検討しています。こうした資金も有効利用しながら、防災を中心に地域と自治体、企業が協力し、中学生の防災教育としても役立つ、そんな立体的なアイデアを膨らませるのが大事だと思います。


地域の防災活動がうまくいくコツというのがあれば教えてください。

矢守:決定的なものはありませんが、リーダー1人だけが奮闘していると苦しいですね。連携する別組織のリーダーと密接な協力関係を築き、支え合える仕組みがあればうまくいくような気がします。

先ほど紹介した興津地区では自主防災組織のリーダーが、小中学校の校長や四万十町役場の職員などと非常によく連携しています。

自治体や自治会、自主防災組織ではリーダーだけが頑張っている状況になりやすいので、地区防災計画学会などでリーダーとまわりの人たちを結びつける役割が果たせたらと思っています。