警戒レベル4から災害発生までは数時間

ところが、この警戒レベルは十分な時間的なゆとりをもって発表されるわけではない。内閣府避難情報に関するガイドライン(令和3年5月改定)によると、警戒レベル4相当情報の発表から災害発生までの目安の時間は「避難指示の発令後、2~3 時間程度あるいはさらに短時間で災害が発生する又は暴風により避難が困難になる可能性があると考えられ、この短い時間内に居住者等は自宅・施設等から指定緊急避難場所等への避難先に立退き避難する必要がある」としている。同ガイドラインでは「このことを、居住者等はもとより、市長村においても十分に認識したうえで、避難の実効性を高めていくことが必要とされる」と強調している。なお、この時間を長くするためにより早いタイミングから警戒レベル4相当情報の発表を行うこととした場合、その発出根拠について説明が問われるほか、警戒レベル4相当情報の発表頻度が高まり、いわゆる「空振り」が頻発してしまうおそれがある。これが自治体が避難情報を発出する上で最も難しいとされる点だ。

オオカミ少年効果への懸念で災害直前に

梅雨や梅雨期の大雨、さらに台風が頻繁に襲来する日本では、いつ大規模災害が起きてもおかしくないような気象要件が年に何度も出現する。その都度、前倒しで避難指示を出し住民を避難させることは、オオカミ少年効果を引き起こす危険もあり、現実的ではない。したがって、避難指示は、ある程度の被害が確実視される時点になってしまい、ゆとりをもった早期避難は、住民の自主性に頼らざるを得ないのが現実だ。

しかし、雨風が強まり、夜間ともなれば避難はより困難を極めることは、過去の災害で幾度となく、繰り返されてきたことだ。また、避難情報を待たずに住民が避難を開始しても避難所が開設されていないケースも起こり得る。

広域災害や高潮などの災害は避難に時間がかかる

一方、台風に起因した高潮による災害などは広範囲に被害が及び、避難には相当な時間がかかることを考慮しなくてはいけない。例えば、福岡県が令和元年に出した有明海沿岸の高潮浸水想定によれば、浸水面積は2万8480haに及び、浸水継続被害が1週間以上に及ぶ地域も少なくない。

そのようなことを考えれば、今回のような、明らかに過去に例がないような台風到来時には、判断基準となる気象情報(氾濫危険情報など)を待たずに、自治体はギアを入れ替え、早めに避難情報を出すべきだろう。新型コロナの感染対策など避難所準備に時間がかかる点も考慮すべきだ。もちろん住民が自治体からの避難情報を待たずに自主判断により早期に避難することが最も有効であることは言を俟たない。

画像を拡大 福岡県高潮浸水想定について(有明海沿岸)
画像を拡大 台風を起因とする過去のあ高潮災害