「過去の事例で米軍が行ったトモダチ作戦では、こちらの技能が把握されず、混乱してしまった。識別章の色分けによる見える化は他の組織とのスムーズな連携とモチベーションアップの2つの役割を期待した結果」と佐藤氏は話す。 

今後は、現在の3つの認定ランクから更に細分化し認定ランクを増やしたいと考えている。それによって、オールハザードに対応できるレベルの隊員の養成および各レベルの役割の明確化が図れると考えている。 

また、東電フュエルでは現場で培った実績をもとに、有事の際に対応にあたる東電社員、年間600人に対し、知識および消火実技面からの指導に携わっている。また同様に日本原燃社員に対しても年間1600人の消防技術指導を行っている。

隊員を守る個人用保護具へのこだわり
装備も更新しグレードアップさせた。従来の消防長靴にコートを羽織るタイプの防火衣を止め、現在、多くの公設消防隊が着用しているセパレートタイプの防火衣を採用した。これまでの消防長靴では太もも部分までしか覆うことができなかったが、腰や臀部までしっかりと防護できるようになった。価格は従来製品の3倍に跳ね上がったが、素材の耐久性、耐熱性と防護性も大幅に向上し、安全性をより高めた。「何より隊員のモチベーションアップにつながったことは大きな成果」と松阪氏は語る。 

新しい防火衣は、細部にも改良を加えオリジナルの仕様にした。一般的に背部に示される所属機関名は、空気ボンベを背負った状態でも判別できるように、臀部に示すようにした。光を反射するリフレクターは、前と後で向きを変え、隊員がどちらを向いているか暗闇でも判別しやすくした。消火活動中の進行方向が認識しやすく、もし隊員が倒れてもすぐに向きを判断できるように工夫した。担当した松阪氏は「National Fire Protection Association基準の防火衣も参考にした」と説明する。 

数も増強した。これまでは、現場にかけつける隊員数を基準に防火衣をそろえていたが、大規模災害に備えて全隊員が出動できるよう、ほぼ全隊員分を用意した。隊員の背負う空気ボンベの容量も2倍に増やした。 

消火器具では、発災時の屋内侵入を強く意識し、機動力アップのために小口径のホースを選び、水を放出するノズル部分を一新した。東京電力と共同で「消防ホース収納バッグ」を開発し特許も取得している。ホースをつづら折りにたたみ込み、絡ませることなく1人でホースを運び伸長させることができ、負傷者の運搬もサポートする仕様になっている。

図上防御展開図を活用 
一方で、同社は危険物を扱う発電所構内での訓練には自信を持っており、訓練については従来の方法を踏襲して実施していくとしている。 

「発電所で取り扱う危険物と保管場所は決まっているので、隊員は熟知している」(中沢氏)。 

それに加え、同社には発電所構内にある危険物施設の詳細を平面図に記した「図上防御展開図」と呼ばれている図面がある。それぞれの施設に対応して危険物の種類や対応方法、注意点と使用する資機材などを設置場所と共に図上に示したものだ。 

もし、火災が発生したらこの図上防御展開図を手に、消火活動に入る。 

自衛消防隊は、火災する可能性がある危険物をあらかじめすべて把握できていることが公設消防との大きな違いだ。このため、同社では、危険物の情報を熟知した上で、訓練を繰り返し行うことを基本にしている。危険物がある建物周辺では訓練できないため、図をもとに風向きや漏洩量を変えるなど、条件を変え数多くの事態を想定して図上訓練を行っているという。 

一方、発電所構内では、大規模な火を使って訓練を実施することができないため、同社では、横須賀にある一般財団法人海上災害防止センターや新潟にある昭和シェルの防災訓練所に社員を派遣して研修を受けさせている。これらの施設は、コンビナート火災など日本では数少ない特殊危険物の火災に備えるために整備されたもので、入社してすぐの新人研修と、それ以降も複数回の訓練を受けさせるという。平均すると社員1人あたり2.5回は、これら社外の消火訓練に参加しているという。佐藤氏は「2つと同じ災害はない。あらゆるシチュエーションに備え、今後も人材育成第一に徹していきたい」と話している。