2019/11/15
日本企業が失敗する新チャイナ・リスク
■ 中国人を人前で叱ってはいけない?
さて、日本人の多い上海に住んでいますと、多種多様な日本人向けのセミナーが行われていて興味深く思います。特に日本から来る駐在員を相手にした「中国駐在初心者への心構え」的なセミナーもよく行われているようです。だいたい大手のビジネスコンサルタントか銀行系の投資会社などが主催しているのですが、そこで必ず語られることに以下のような話があります。
「中国人スタッフは絶対に人前で叱ってはいけません。それは、中国人がメンツを最も重要視するため、人の前で怒られてしまうことを嫌うからです」
つまり、あたかも「割れ物にでも触るように」対すべきだというのです。果たしてそうなのでしょうか? これまで16年にわたり中国でビジネスを行ってきた経験から申し上げると私の結論は「否」です。
至極当然のことですが、雇用された立場に於いて社会人としてまたは企業人として叱られるべきことをしたにもかかわらず、もしそれを上司がスタッフの前で指摘せずに裏で叱ったとした場合、中国でも当たり前のように社内の秩序は崩壊してしまうことでしょう。
また、これも当然のことではありますが、世界中どこにおいても上司と部下の間において信頼関係を築けていないにもかかわらず人を叱りつけることは、人間関係に亀裂が入る原因になり得えます。
逆にお互いに信頼関係があれば、指摘する言葉が強かったりしたり、叱りつけたりしても、それがすぐに人間関係に亀裂を生じさせるようなことには発展しません(昨今大変関心の高い、いわゆる「パワハラ」や「人格否定」をするような言葉や態度の場合は除きます)。
よって、上記セミナーにおいて講師が語りたいのは、赴任期間が短く中国人スタッフと十分な人間的信頼関係が結べていない日本人責任者達に与えるべきアドバイスであり、中国人としっかりと理解し合いながら仕事をしている人へは全く意味のないアドバイスだったりすることも事実です。
本来であれば、「中国人スタッフとは人間的信頼関係を築くことが何よりも重要であり、それが前提となって社内秩序が成立する」という風に諭すべきでしょう。
私も以前勤めていた会社で2回ほど、皆が集まっている会議において部下をひどく叱ったことがあります。普段は温厚な感じの私ですが、ここぞというときには爆発することもあります。
しかし、それはその部下のため、または会社全体のため、事故を防ぐためにも気合を入れる必要があったと判断しわざと厳しくしたのであり、決して気分を害したからではありませんでした。
中国においても、そんなときは叱られた部下は神妙な顔をしていますし、周りは完全に全てが静止してしまいます。しかし、それが原因で人が辞めたり、人間関係が崩壊したことはありません。逆に「雨降って地固まる」を地で行く物語が出来上がるのです。関係はますます親密感を増し、お互いの信頼関係はより深くなっていくのです。
実は、こういう体当たりの付き合いが絶対に必要なのが中国なのです。こういう前向きな熱い人間関係を作り上げることが、これまで「チャイナ・リスク」といわれたさまざまな「人による問題」を解決する秘訣と言っても過言ではないでしょう。
「中国では熱く!」これがコツなのです。
日本企業が失敗する新チャイナ・リスクの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/03/05
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/03/04
-
-
-
トヨタが変えた避難所の物資物流ラストワンマイルはこうして解消した!
能登半島地震では、発災直後から国のプッシュ型による物資支援が開始された。しかし、物資が届いても、その仕分け作業や避難所への発送作業で混乱が生じ、被災者に物資が届くまで時間を要した自治体もある。いわゆる「ラストワンマイル問題」である。こうした中、最大震度7を記録した志賀町では、トヨタ自動車の支援により、避難所への物資支援体制が一気に改善された。トヨタ自動車から現場に投入された人材はわずか5人。日頃から工場などで行っている生産活動の効率化の仕組みを取り入れたことで、物資で溢れかえっていた配送拠点が一変した。
2025/02/22
-
-
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP
神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立した対応ができるように努めている。
2025/02/20
-
能登半島地震の対応を振り返る~機能したことは何か、課題はどこにあったのか?~
地震で崩落した山の斜面(2024年1月 穴水町)能登半島地震の発生から1年、被災した自治体では、一連の災害対応の検証作業が始まっている。石川県で災害対応の中核を担った飯田重則危機管理監に、改めて発災当初の判断や組織運営の実態を振り返ってもらった。
2025/02/20
-
-
2度の大震災を乗り越えて生まれた防災文化
「ダンロップ」ブランドでタイヤ製造を手がける住友ゴム工業の本社と神戸工場は、兵庫県南部地震で経験のない揺れに襲われた。勤務中だった150人の従業員は全員無事に避難できたが、神戸工場が閉鎖に追い込まれる壊滅的な被害を受けた。30年の節目にあたる今年1月23日、同社は5年ぶりに阪神・淡路大震災の関連社内イベントを開催。次世代に経験と教訓を伝えた。
2025/02/19
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方