■ 中国人を人前で叱ってはいけない?

さて、日本人の多い上海に住んでいますと、多種多様な日本人向けのセミナーが行われていて興味深く思います。特に日本から来る駐在員を相手にした「中国駐在初心者への心構え」的なセミナーもよく行われているようです。だいたい大手のビジネスコンサルタントか銀行系の投資会社などが主催しているのですが、そこで必ず語られることに以下のような話があります。

「中国人スタッフは絶対に人前で叱ってはいけません。それは、中国人がメンツを最も重要視するため、人の前で怒られてしまうことを嫌うからです」

つまり、あたかも「割れ物にでも触るように」対すべきだというのです。果たしてそうなのでしょうか? これまで16年にわたり中国でビジネスを行ってきた経験から申し上げると私の結論は「否」です。

至極当然のことですが、雇用された立場に於いて社会人としてまたは企業人として叱られるべきことをしたにもかかわらず、もしそれを上司がスタッフの前で指摘せずに裏で叱ったとした場合、中国でも当たり前のように社内の秩序は崩壊してしまうことでしょう。

また、これも当然のことではありますが、世界中どこにおいても上司と部下の間において信頼関係を築けていないにもかかわらず人を叱りつけることは、人間関係に亀裂が入る原因になり得えます。

逆にお互いに信頼関係があれば、指摘する言葉が強かったりしたり、叱りつけたりしても、それがすぐに人間関係に亀裂を生じさせるようなことには発展しません(昨今大変関心の高い、いわゆる「パワハラ」や「人格否定」をするような言葉や態度の場合は除きます)。

よって、上記セミナーにおいて講師が語りたいのは、赴任期間が短く中国人スタッフと十分な人間的信頼関係が結べていない日本人責任者達に与えるべきアドバイスであり、中国人としっかりと理解し合いながら仕事をしている人へは全く意味のないアドバイスだったりすることも事実です。

本来であれば、「中国人スタッフとは人間的信頼関係を築くことが何よりも重要であり、それが前提となって社内秩序が成立する」という風に諭すべきでしょう。

私も以前勤めていた会社で2回ほど、皆が集まっている会議において部下をひどく叱ったことがあります。普段は温厚な感じの私ですが、ここぞというときには爆発することもあります。

しかし、それはその部下のため、または会社全体のため、事故を防ぐためにも気合を入れる必要があったと判断しわざと厳しくしたのであり、決して気分を害したからではありませんでした。

中国においても、そんなときは叱られた部下は神妙な顔をしていますし、周りは完全に全てが静止してしまいます。しかし、それが原因で人が辞めたり、人間関係が崩壊したことはありません。逆に「雨降って地固まる」を地で行く物語が出来上がるのです。関係はますます親密感を増し、お互いの信頼関係はより深くなっていくのです。

実は、こういう体当たりの付き合いが絶対に必要なのが中国なのです。こういう前向きな熱い人間関係を作り上げることが、これまで「チャイナ・リスク」といわれたさまざまな「人による問題」を解決する秘訣と言っても過言ではないでしょう。

「中国では熱く!」これがコツなのです。