災害時に裁判以外で紛争処理を行えるADRも有効な解決手段です

被災地でおきる紛争として多い類型のひとつに「賃貸借契約」をめぐる紛争があります。特にアパートやオフィスが多い都市部で非常に件数が多くなり、全相談に占める割合も高くなる傾向にあります。東日本大震災の宮城県や、熊本地震の熊本県では、1年間を通じてもっとも相談の多いカテゴリーとなりました。弁護士の無料法律相談にも、当事者から多数の相談が寄せられました。

あくまでモデルケースとして紹介しますが、具体的には「借りているアパートの水回りや扉の一部が壊れているが修理をオーナー(賃貸人)へ依頼しても、資金がないなどとして修繕してもらえないがどうすればいいか」「家主(賃貸人)から修繕できず余震も心配なので、契約は終了し、退去してほしいといわれてしまったが、行く当てもないので困っている。契約はどうなるのか」などの相談事例が代表的です。

賃貸借契約においては、賃貸人が当該物件の修繕義務を負担しています。また、賃借人側が先に修繕をした場合には、それにかかった修繕費用をあとから請求することもできます。しかし、実際問題はどうでしょうか。

家主も、決して悪気があるわけではないのに、同様に被災者であったり、一度に資金繰りができず、修繕したくても修繕できないというジレンマに陥いっている場合もあります。実際に、賃貸人側から弁護士の無料法律相談にくるケースも非常に多いのです。

こうなってくると、裁判により判決を取得するまで紛争を続けても大きな効果は得られず、またそこまでの負担をかけてまで賃貸人と賃借人で争いたくないという人たちもたくさん出てきます。

そこで利用を促したいのは「災害ADR(震災ADR)」です。「ADR」とは裁判外紛争解決手続のことで、裁判所を利用した手続ではない方法で、話し合いで紛争解決を目指す手法のことをいいます。平常時からいろいろな分野のADRがありますが、災害時の被災者からの相談(被災者が当事者となっている紛争)に特化した「ADR」が「災害ADR」です。

これまで、大規模被災地では、都道府県の弁護士会が「災害ADR」を独自に開設してきました。弁護士が仲介役を担い、あっせん案を提示するなどして、当事者の自主的な解決を促していく仕組みです。今回の賃貸借紛争の事例の解決には効果的であるとされています。

「災害ADR」では、申立段階の費用を無償にしたり、成立した時の報酬を平常時の基準から減額したり、今まで行ってきた各弁護士会が独自に工夫をしています。被災地で弁護士会が「災害ADR」を開催していないか、ぜひ情報を得るようにしてください。

なお、弁護士会には、「紛争解決センター」(ADRセンター)があり、平時から和解あっせんや仲裁の申立てを受け付けています。「災害ADR」がない場合には、通常のADRを利用することも検討してください。

(了)