2019/03/13
ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情
自治体は適切な予算配分を
以下は、3名体制のポンプ車隊1台の出張所における現状課題と対応として、ワークショップで発表された内容である。
・学校入校、研修、けが、離職や急な休みなどで、やむを得ず消防職員が2名しか勤務していないこともある。そのため、出動指令の受信時に直近の消防団員や消防訓練を受けた役場職員が駆けつけたり、非番日の職員を迎えに行って勤務してもらったりして、現場に向かうこともある。
・消防団員や役場職員に「准救急隊員」を増やしたいが、准救急隊員になるためには92時間の講習を修了する必要があり、その人的・予算的な余裕がない。
http://www.fdma.go.jp/html/hakusho/h29/h29/html/2-5-5-5.html
・入電時点で炎上火災であったため第2直近隊が出場したが、現場到着までに20分以上もかかった。1隊3名と消防団2名の先着隊が消火作業するも火勢鎮圧に間に合わず、第2直近隊の到着時にはすでに大炎上していた。
・火災建物の場所によっては、裏山に延焼拡大して山林火災に発展することがある。家畜施設のわらなどに延焼して家畜が逃げることができなかったケースでは、施設の全焼ばかりか動物の焼死、焼死体の処理コストなど、経済的な損失なども含めて大惨事になった。
・消防車の緊急走行は2名以上と規定されているが、人員を確保できない事情から、指揮車や支援車の緊急走行を職員1名で行うことが以前から行われている。
・山間部の消防本部などでは、休みやけがなどの事情でやむを得ず2名勤務になった場合、火災出動には直近署所から3〜4隊の消防車が選択される。延焼拡大した場合はさらに遠くの出張所へ指令がかかるようになっているが、現場到着に15〜20分以上はかかっている。場合によっては、炎上火災の入電時に非番日の職員を3人目の職員として非常招集をかけ、住宅地に住む非番日の職員を非緊急走行で迎えに行き、その職員の搭乗後に緊急走行して現場に向かっている。
以下は、ポンプ車隊3名と救急隊(1台)2名体制の出張所における現状課題と対応として、ワークショップで発表された内容である。
・救急車の運行は、午前9時から午後5時までは本署の日勤職員や隣接する役場職員が搭乗し、夜間休日は非番職員を自宅まで非緊急走行で迎えに行き、3名揃ったところで出動するなど、ギリギリの状態が続いているらしい。ただ、本署の日勤職員は、人員が足りないことを十分に知っていながらも火災や救急時に出動することに難色を示すことが多く、隔日勤務者のストレスがたまっている。
・病院搬送を必要とする要救助者がいる火災出動の場合、消防車と救急車が配備されている3名勤務の消防出張所では、ポンプ車に2名乗車、救急車の運行は1名が行い、救急資格者が救急行為を行う。その際、緊急走行の運転は救急資格者である必要はないとして、緊急走行訓練を受けた役場職員や消防団員に運転を頼み、救命士の職員が救急車の後部で患者の処置を行うなど、どうにか「最低2名以上」を確保して救急出動しているところもある。
・日中は救急隊員と役場職員の2名で救急車を運用し、夜間は運転を委託した外部機関(上級救命講習)受講者が救急対応している。
・出張所は最低3名勤務としているが、火災出動で救急車が必要な場合は、共同指令センターから同時指令を行い、直近(緊急走行で約20分)の救急車が来る。ただ、その救急車の出動時には救急管内に救急車がいなくなるため、対応が遅れて問題になったことがあった。今は、ポンプ車に2名乗車、救急車に1名乗車して出動し、救急出動が必要な場合は、緊急走行訓練を受けた消防団員が救急車を運転して病院搬送している。
このような消防事情の背景には、人口減少と時期的な高齢者対応事情が背景にあると思う。しかし、県知事や市町長が消防に対して、「火災や救助を要する事案も減少し、消防装備など使う頻度が低いものに金を出せない。ほかに金を回す必要がある」と考えているなどして、結果的に住民の生命・身体・財産・生活の安全のリスク予防や発災時の現場対応が十分でない場合、多くの犠牲者を出して安全配慮義務を問われるなどして、大きく取り沙汰されることになるようなケースも今後十分に考えられる。
さらに、住民自らが「家族の安全を保てない場所には住めない」と判断して移住するなど、さらなる人口減少につながる一因となる可能性もある。
- keyword
- ワールドファイアーファイターズ
- 消防
ワールド ファイアーファイターズ:世界の消防新事情の他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方