ゲーテの生家(フランクフルト市、現在)

詩人の4期の発展

詩人ゲーテの人間的及び精神的発展は4期に大別することができる、とされる。

・第1期は出生からライプチヒ遊学(1765~68)と1770年のシュトラスブルク(現フランス領シュトラスブール)遊学中における哲学者ヘルダーとの出会いを経て75年秋のワイマール移住まで。
・第2期はワイマール公国のカール・アウグスト公のもとにおける多忙な政務及びシュタイン夫人との恋愛の10年間。
・第3期はイタリア旅行(1786~88)を過渡期として帰国から盟友・文学者シラーの死(1805)まで。
・第4期はそれ以後のエッカーマンの秘書時代を含む晩年である。

ドイツ文学史上、ゲーテが文学活動を開始した時期は既に記したように「シュツルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)」と呼ばれる。だが、シェークスピアを称揚した友人ヘルダーがその理論的指導者であったのに対し、ゲーテは抒情詩の面で「5月の歌」をはじめとする「ゼーゼンハイム小曲」、戯曲の面で「ゼッツ・フォン・ベルリヒンゲン」、小説の面で書簡体文学「若きウェルテルの悩み」によって真に文学革命的な新生面を開いた。

万能の才人

ゲーテの文学世界の特徴は、<自然><象徴><理念><活動><愛><悪魔的(デモーニッシュ)なもの>などという言葉によって要約される。彼にとって自然は青年時代から<神性の生きた衣>(『ファウスト』第1部)であり、森羅万象ことごとく<神性の内的生命>を象徴的に暗示するものであった。彼の詩作は、自然の中に神性の声を聞き取り、象徴として把握された事物の隠れた意味を探りだすことに他ならなかった。この意味で彼の文学作品は深く宗教的な意味を持っていた。そのうえ、神性が永遠の理念に従って神秘的生命の営みを続けているように、人間には<理念>としての芸術的・道徳的理想を<活動>によって実現すべき使命が与えられている。

しかも、その活動が個人及び社会に役立つためには<愛>を持っていなければならなかった。その必要は、自然や歴史の中の<デモーニッシュ>なもの、即ち完全に神的でも悪魔的でもない無気味な非合理的力の作用が絶えず感じられるだけに一層切実であった。ゲーテの抒情詩はこうした必然的に<象徴>的自然詩ないし体験詩となり、彼の小説や戯曲の作中人物たちもみな、詩人同様それぞれの仕方でデモーニッシュなものとの戦いを経験しなければならなかった。