【イスタンブール時事】パレスチナのイスラム組織ハマス最高指導者ハニヤ氏が訪問先のイランで殺害された経緯を巡り、情報が交錯している。イランは、空爆で殺害されたと主張。一方、複数の米メディアは、ハニヤ氏が滞在した部屋に事前に仕掛けられた爆発物が遠隔操作で起爆したと報じた。決定的な物証が示されず、真相は謎に包まれている。
 ハニヤ氏は7月30日に行われたイランのペゼシュキアン大統領の就任宣誓式に出席するため首都テヘラン入り。最高指導者ハメネイ師らとの面会を終えた後、精鋭軍事組織「革命防衛隊」が管理する市北部の宿泊施設で翌31日未明に死亡した。施設は厳重に警備され、ハニヤ氏の過去のイラン訪問でも使われたという。
 米紙ニューヨーク・タイムズは1日、複数の当局者の話として、約2カ月前にひそかに爆発物が施設へ持ち込まれ、同氏の所在確認後に起爆したと報道。米ネットメディア「アクシオス」も、寝室に人工知能(AI)応用の高性能爆破装置が仕込まれ、イラン国内にいるイスラエル対外情報機関モサドの工作員が関与したと伝えた。英メディアは監視カメラを見た当局者の情報として、革命防衛隊の協力者2人がモサドに雇われ、数分以内に施設の複数の部屋に出入りし爆弾を設置したと報じた。
 これに対し、革命防衛隊は3日の声明で、ハニヤ氏の滞在先の外から「弾頭約7キロの短距離飛翔(ひしょう)体」が発射されたと主張して爆弾説を否定。「米国の支援でシオニスト(イスラエル)が計画・実行した」として、「厳しく罰せられる」と報復を明言した。イスラエルは関与を認めていない。
 イランは、反イスラエルで共闘する親イラン組織のトップを首都で殺害され、完全にメンツをつぶされた格好。仕掛けられていた爆発物による暗殺が事実なら、潜入を許した治安当局の責任が問われる。イランが主張する空爆だとしても、防空網で迎撃できなかった失態が批判の対象となりかねず、いずれにせよ革命防衛隊や体制指導部の威信失墜につながりそうだ。
 欧州研究機関の専門家は中東メディアに対し、長らく欧米の制裁を受けるイランが経済苦境や社会不安、有能かつ信頼できる人材の不足に直面していると指摘。「情報の収集・対処に充てる膨大な資源を自国民の監視や抑圧に回し、外国からの脅威への対応を犠牲にしていることを浮き彫りにした」と分析している。 
〔写真説明〕パレスチナのイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏=3月26日、テヘラン(EPA時事)

(ニュース提供元:時事通信社)