2021/09/27
企業をむしばむリスクとその対策
□対策のポイント 対処療法的なマニュアル改正に注意
○A社の事例=守るべきルールやマニュアルが多い、または複雑なため、結果、守られなくなってしまう
組織が大きくなり、業務が複雑化すればするほど、ルールやマニュアルが増えていくのはよくあることです。また、何か問題が生じた場合にはそれに対応してルールやマニュアルが修正され、場合によっては、新たなルールやマニュアルが追加されていく。結果として、どんどん複雑になっていき、チェック項目が増えていき、やるべきことが増えていってしまう……といった組織も多く見受けられます。注意しなければならないのは、問題が発生した際に単に対処療法的に「新しいルール、マニュアル」を追加するということを行わないことです。
面倒な作業ですが、既存のルールやマニュアルを見直し、複雑になったり業務のボトルネックになったりしてしまう部分がないかを見極め、可能な限りシンプルなルールやマニュアルにすることが必要です。ただし、どうしてもシンプルにならないケースもあり得ます。このようなケースでは、現状のルールやマニュアルをベースに「運用管理を行うツール」を用意することも一つの手段。現状のルールなどをうまくツールに反映できれば、後はツールを使うだけで「自然とルールが守られている状態を保つ」ことができるようになりるでしょう。
○B社の事例=ルールを守らない理由を都合のいいように作り出し、リスクの発生を過小評価してしまう
上記の(7)に関連しますが、ルールを守らないことにより得られるメリットが大きいと思うと、人はルールを守らなくなります。B社の場合には「これまで重大な事故はなかった」という過去の結果により、守るべき安全性よりも生産性やコストのメリットの大きさから安全装置を作動させないで作業をしていたのだと思われます。このような状態が当たり前になっていくうちに、ルールやマニュアルの軽視、さらには無視が起き始めていきます。
そうなると、ルールやマニュアルの軽視や無視そのものが問題であることが自覚されなくなり、その作業状態が「社内の常識」になってしまいます。そして、社員の誰かが「おかしい」と思っても、そのことを指摘することが難しくなっていくのです。いわゆる「オリジナルマニュアル」「裏マニュアル」などができていき、それが基準になって重大事故につながっていってしまう典型的な例と言えます。
仕事の環境は日々変化するもの。普段は表面化しない要因が特定の条件のもとで出現したり、環境の変化や制約条件などの発生により普段のパフォーマンスが変動したりすることは容易に考えられます。その環境変化が事故につながるケースもあるのです。「過去に重大な事故が起きていない」というのは、この先もこれまで同様の条件で仕事ができることが前提という、実は「誤った」考えのもとにリスクを過小評価する行為なのです。
○C社の事例=ルールやマニュアルが現場の動きに即していない
実務に沿っておらずルールを守ることが困難な場合やルールを守ることが現場の負担になっている場合が原因の典型的なケースです。「そもそも守ることのできないルールであった」といえるかもしれません。ルールやマニュアルは「守ることのできるもの」であることが大前提です。当たり前だと思われるかもしれませんが「その通りにできない」「書いてある通りにやってたら、時間がいくらあっても足りない」という現場の声は案外多いもの。そうであるなら、ルールやマニュアルの策定に当たっては、まず現場の作業の実態を把握し、それに合わせて「守ることのできる」内容のものにすべきです。
また、既にルールなどが策定されている場合でも、そのルールなどが本当に「守ることができる」内容になっているかの検証も必要でしょう。そしてその作業を経た後には、現場に対してそのルールの目的や意図を明確に示すことが重要になります(上記(2)に関連)。
ルールが守られない状況を「社員の意識の問題」とだけ捉え、意識向上や教育の徹底だけをうたっても、ルール順守が達成されることはありません。ルールが無視される要因を分析し、そのことを改善する対策を行わない限り、ルールを逸脱する理由が優先されて、いつまでもルールが守られない状態が続いていきます。それが重大なリスクの出現につながっていってしまうのです。
今回のテーマ:「内部リスク」「管理職・一般社員」
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