2021/08/31
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
図3は2019年、2020年、2021年の各上半期に発見された脆弱性が、どのような悪影響を及ぼし得るかに着目して分類した結果である(注3)。上位のものほど2021年上半期(赤色)の増加が目立つ。

図3では「承認されていないコードやコマンドの実行」(Execute Unauthorized Code or Commands)がトップとなっているが、この図ではDoS(Denial of Service)が具体的な動作によって複数に分けられているので、これらのDoSの数字を単純に合計すると「承認されていないコードやコマンドの実行」の2倍近い数字になる。このように見ていくと、ICSにおけるサイバーセキュリティーで最も懸念される結果はDoSによる稼働停止であると考えられる。
なお最後のセクションには、ICSに関するサイバー攻撃の事例として、2021年上半期に発生した次の3件が紹介されている(注4)。いずれも詳細はClatory社のウェブサイトに掲載されており、本報告書内にはこれらの記事のURLが記載されている。
・米国のコロニアル・パイプラインでのランサムウエア攻撃
・米国フロリダ州オールズマー市の浄水場への不正アクセス
・ブラジルの食肉大手JBSでのランサムウエア攻撃
これらの事例は日本でもある程度報道されているので、ご存じの方も少なくないと思われるが、セキュリティーの専門家によって詳細に解説された記事を読むことで、改めて学べることも多いであろう。
本報告書の説明にはサイバーセキュリティーに関する専門的な内容が多く含まれるため、専門外の方々にとっては、内容を全て理解するのは難しいかもしれないが、要点だけでもナナメ読みすることで、ICSに関するセキュリティー上のリスクの状況や動向を大まかに知ることはできる。
また、このような情報や知識を持つことが、自社におけるリスクアセスメントに役立つだけでなく、IT部門や設備担当部門、製造業であれば生産技術部門など、他部署との間のコミュニケーションにもプラスになると思われる。本連載の第150回で紹介した報告書(注1)と同様に、多くの方々に目を通していただきたい報告書である。
注1)第150回:急速に普及するIoT技術に求められるセキュリティー対策
Nozomi Networks / OT/IoT Security Report
https://www.risktaisaku.com/articles/-/56037(2021年7月27日掲載)
注2)ちなみに影響を受けたベンダーの上位5社は、Siemens、Schneider Electric、Rockwell Automation、WAGO、Advantechとなっている。いずれもICSに関する機器やシステムの大手であり、日本法人もあるので、日本企業でも多数導入されているであろう。
注3)なぜ各年の下半期を入れて連続的な比較をせず、上半期だけで比較したのかは不明である。上半期と下半期とで、脆弱性の調査活動に何か違いがあるのだろうか?
注4)これらのうちコロニアル・パイプラインとJBSの事例は、本連載の第150回で紹介した報告書にも掲載されていた。
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方