浸水した拠点施設「みーるんヴィレッジ」の再生イメージ図

美しい日本の食文化を未来に伝える——株式会社ミールケア(長野県長野市)が掲げる理念だ。子どものアレルギーや食育に配慮した食事がブランドとして定着、現在、幼稚園・保育園を中心に全国500カ所の施設で給食サービスを提供している。が、昨年10月の台風19号による千曲川氾濫で本社を含む拠点施設が浸水、復興に向けて歩を進めていたところに新型コロナウイルスが襲った。関幸博社長が2つの災害から受け止めたメッセージは「変化」。社会貢献の視点から企業ビジョンを再構築して被災施設の再生にあたるとともに、経営理念を社内・社外に浸透させてより積極的な実践活動につなげようと決意する。

株式会社ミールケア
長野県長野市

事例のPoint
❶ 相次いで襲った水害と新型コロナが事業を見つめ直す契機に
災害のなかで現実を直視。従業員をはじめ、ステークホルダーの協力と応援の力を実感

❷ 水害リスクの高さ意識して事業ビジョンを再構築
浸水した拠点施設の復興にあたり、地域貢献の視点で事業ビジョンを再構築。「防災」「憩い」の考え方を再生計画に落とし込む

❸ 理念の浸透と発信に向け従業員教育を充実
SDGsの目標とリンクさせた地域貢献活動や普及・啓発活動に力を入れるため、コロナ禍で導入したオンラインを使って社内勉強会を活発化


「時間に追われ頭の整理がつかなかった。損害の大きさに対するショックと将来の不安ばかりが大きくなる。現実を直視せざるを得なくなるに至って、ようやく混乱していた頭の中が落ち着いた。腹が座ったのですね」。関幸博社長は率直に話す。

昨年10月の台風19号による千曲川の氾濫で、拠点施設の「みーるんヴィレッジ」が3メートル浸水した。約3ヘクタールの敷地に本社社屋と直営の自然食レストラン、パン工場などを併設した食育フードのテーマパーク。堤防決壊地点からわずか数百メートルの距離だった。

本来であればレストランとパン工場が朝から稼働する13日日曜日、未明決壊の報に、関社長ら役員がスタッフとともに現地に行こうと試みた。しかし主要道路は全て封鎖、水が押し寄せて近づけなかったという。

人の応援が被災後の動揺を落ち着かせる

幼稚園・保育園をはじめ病院や福祉施設、社員食堂への給食サービス提供が売上の8割を占める。献立の企画から食材の調達、加工、調理までワンストップで受託、子どものアレルギーや食育に配慮し地産地消にこだわった食事が「ミールケアブランド」として定着し、提供施設は全国で500カ所を超えた。

給食作業を行うのは、全員が同社の従業員。各施設の調理場に毎日入り、それを東京都内の事業本部が統括する。連絡網が整備されているので、台風19号の際もすぐに安否確認を行った。

「広域災害だったから、長野市の本社以外にも被災した従業員が複数いた。逐一情報をもらい、のちに手当てを出すなどして対応しました。当初は、目の前の必要なことをこなすだけで精一杯でした」と、田子美津子常務は振り返る。

 

決壊から2日後の15日火曜日、被災した「みーるんヴィレッジ」に勤務する従業員を集め、東京の事業本部ともテレビ会議をつないで状況を説明。その後、集まったメンバー全員がスコップをもって現地に乗り込んだ。甚大な被害に呆然(ぼうぜん)としたが、救いはあったと関社長はいう。

一つは人の結束だ。部門長を筆頭に従業員が団結して行動、週末には遠方に勤務するスタッフも駆け付けてくれたという。「取引先も次々に応援に来てくれ、ボランティアの方々も全国から大勢手伝いに来てくれた。前より会社をレベルアップし、文字通り『復興』を果たさなければという思いを強くした」

もう一つの救いは、売上のダメージが比較的軽かったこと。「東京の事業本部は問題なく機能していたので、問題はレストランとパン工場。レストランは一時中断しても大きな影響はなく、パン工場も自社ブランドにこだわらなければ、市場から代替品を入れることはできる」。そのことが、焦燥感を大幅に軽くした。

本記事は「月刊BCPリーダーズ」12月号に掲載したものです。月刊BCPリーダーズはリスク対策.PRO会員がフリーで閲覧できるほか、PRO会員以外の方も号ごとのダウンロードが可能です。
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