2017/09/11
安心、それが最大の敵だ

2.石巻市:最悪の被害、防災まちづくり、NPOの活躍
東日本大震災で最悪の被災地となったのが石巻市であった。同市南浜は6.9mの津波に襲われ、多くの市民が波に飲み込まれた。死者3181人、行方不明者420人で、いずれも東北地方の被災地の中では最悪である。人口は14万6991人で、被災前の16万3602人から減少したままである。宮城県第二の都市・石巻市は「最大の被災都市から世界の復興モデル都市、石巻を目指して」を掲げている。
同市の「震災復興基本計画」は基本理念として、1.災害に強いまちづくり2.産業・経済の再生3.絆(きずな)と協働の共鳴社会づくりーをあげている。復旧・復興事業への視点を少し変えて、事業費ベースで見てみたい。同市での2020年度(被災から10年)までの復旧・復興事業費は、国・県が施工する事業を含めると1兆円の巨額を超えるとされている。同市の一般会計予算の約18年分に相当するという。
復旧事業費(3595億円)=災害廃棄物処理(1888億円)、産業(773億円)、公共土木施設(557億円)、教育文化(252億円)…。
復興事業費(7426億円)=公共土木施設(1758億円)、災害公営住宅(1514億円)、被災者再建支援(1313億円)、防災集団移転(1087億円)、産業(857億円)、土地区画整理(365億円)、健康・医療・福祉(205億円)、教育・文化(121億円)…。
今回の現地視察ではNPOの活躍にも注目し「公益財団法人みらいサポート石巻」に専務理事中川政治氏を訪ねた。
「みらいサポート石巻」は、2011年3月11日の東日本大震災発生後に発足した「NPO・NGO連絡会」の事務局機能からスタートし、2011年5月13日に前身となる「一般社団法人石巻災害復興支援協議会」として設立された。(以下、ホームページによる)。
緊急対応期には、東日本大震災の被災者支援として石巻に駆けつけたNPO・NGOや特別な能力を持ったボランティアが円滑に活動を行うための調整やサポートを行ったほか、避難所の衛生改善事業、入浴支援事業等を実施した。
災害救援から復興支援へとフェーズが変化するのに伴い「支援」という一方通行の言葉が石巻の状況に見合わなくなってきたことに対応し、2012年11月22日に「みらいサポート石巻」に名称を改めた。石巻のより良い未来に向けた取り組みを行う地域のリーダーや団体と共に石巻を支える活動に移行した。2015年7月1日には、宮城県より公益認定を受けて公益社団法人となり、現在は「震災支援の連携から震災伝承の連携へ」活動をシフトしている。
石巻市では、国・県・市によって「石巻南浜津波復興祈念公園」の2020年度完成に向けた計画が進められ、一方で震災遺構として2つの小学校を保存することが決まったことを受けて、行政・NPO・専門機関が連携して震災伝承体制を構築する機運が高まっている。東日本大震災で甚大な被害を受けた石巻市で設立した団体として、「つなぐ 未来の石巻へ」をミッションに掲げ、震災の体験や災害対応記録を伝え、防災意識を涵養するプログラムを提供するほか、健全な地域づくりを促進するとしている。
中川専務理事が指摘した主要な点を列記する。
・「東日本大震災でのボランティアは少ない」と言われたが決してそうではない。平日は少ないが週末の土日に関東・関西方面から駆けつけてくれた(週末は約3000人/日)。
・震災後直後の支援としては食料・生活物資の配布、倒壊家屋の片付け、泥掻きなどだったが、今でも子育て支援などNPOの活動支援は必要である。
・ブログ等を使用したNPO・NGOの活動紹介は非常に有効に感じた。
・東日本大震災のことを伝承する目的で、2016年熊本地震の被災地にも行った。
・活動の一つとして料理店を営む方々から地震・津波発生時の行動や今後に生かすための教訓などをアンケート方式で調査し冊子にまとめ発信している。市内の若手料理人で作る「芽生(めばえ)会」の協力で、夜間に被災訓練を実施した。東日本大震災は昼間の発生だったが、もし夜間に発生していたら人が集まる料理店などでは大きな被害となっていたかもしれない。大きな商店などは災害に遭ってもBCPがしっかりしている一方で、個人経営の店は被災すると立ち直るのに大変な労力を要する。小さい個人経営のお店の方々のために、このような調査・冊子をつくり広めたいと思った。
若手の料理店経営者が自主的に行った被災訓練は、今後の避難訓練の在り方に示唆を与えていると考える。「自分の街は自分で護る」「自分の店は自分で護る」…。
(参考文献:国交省東北地方整備局資料、女川町・石巻市資料、「みらいサポート石巻」資料)
(つづく)
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