■ 寄り添う心

災害現場において事態を安定化させることとは、生存者の心理状態を安定化させることでもある。以下の順序で行うとよい。

・よく観察し生存者の反応レベルを見る。特に他人へ危害を加える要素があるかないか判断する。
・負傷していない生存者に協力を仰ぐ。例えば物品の仕分けや、何か建設的な仕事を与える。
・家族、友人、聖職者などと接触させる。
・生存者の話をよく聞いてあげる。
・生存者に“寄り添う心”を持って共感する。
・タッピングタッチ(指先を使って軽く弾ませるように肩や頭をたたくことでリラックスさせる手法)を施す。

【良きリスナーであること】

カウンセリングやコーチングにおけるコミュニケーションスキルの中で「傾聴」というのがある。人の話をただ聞くのではなく、相手の立場に立って注意深く、丁寧に耳を傾けることだ。自分の聞きたいことを聞くのではなく、相手が話したいこと、伝えたいことを、受容的・共感的な態度で真摯に“聴く”態度で生存者に接することが重要だ。

・よりよく生存者の気持ちを理解するために、相手の立場に立つこと。過去の経験を参考にしたり、さもなければ、生存者がどのように感じているか想像する。ただし聞き手が完全に生存者の感情をそのまま受けないよう注意が必要になる。
・相手の言葉自体ではなく意味を汲み取る。また非言語的会話、例えばボディーランゲージや表情と口調に注意を払う。
・相手に自分が理解していることを示すために、相手が言ったことを少し言い換えてリピートする。このことにより、よりコミュニケーションが深まる。※まれなケースではあるが、生存者に自殺や精神病の兆候がある場合は医療専門家のサポートが必要である。

【禁句】

一見相手にとって慰めの言葉と勘違いし、よく言ってしまうフレーズを下記に挙げる。

・「よく分かります」同じ経験をしない限り、ほとんど我々にはわかることができない。
・「気を落とさないで」生存者は気を落として当然であり、気を落としていい権利を持っている。
・「あなたは強いから大丈夫」生存者は強いとは感じていない。立ち直れるかどうかさえ疑問に思っている。
・「泣かないで」泣いてもいいのだ。
・「それは、神の意志です」相手を怒らせるかもしれないことを言うべきではない。
・「不幸中の幸いだよ」不幸か幸いかは生存者自身が決めることであって他人から評価されるものではない。
・「大丈夫、すべて良くなるから」すべて良くなるかどうかは生存者の価値観によるもの。我々には分からない。


このような言葉は決して使わないでいただきたい。間違って生存者を怒らせるような発言をしてしまった場合にはしっかりと謝罪するべきである。

【まとめ】

過酷な状況にある災害現場において人は様々な場面に遭遇し、様々な感情が交錯する。今回の連載では人の心理状態の変化を整理した。助ける側も助けられる側も事前知識として頭に入れておくことにより、いざというときの力になるだろう。個人として人と関わり、チームとして人と関わり、救助者として人と関わり、被災者として人と関わる。そのためには一人ひとりが積極的に“勇気の心”を持ちリーダーシップを発揮し、“寄り添う心”を持って人と接することが大切なのである。

次回の連載では、いかにチームとして機能すればよいか、また、いかに関係各機関と連携を取ればよいかを、米国のインシデント・コマンド・システムを参考にしながら解説していく。

参考文献
・COMMUNITY EMERGENCY RESPONSE TEAM.Basic Training Instructor Guide.FEMA.DHS
・生き残る判断生き残れない行動-大災害・テロの生存者たちの証言で判明  アマンダ・リプリー著
・人はなぜ逃げおくれるのか-災害の心理学  広瀬弘忠著
・人は皆「自分だけは死なない」と思ってる  山村武彦著
・市民救助隊養成講座テキストブック

(了)