カオスにカオスをもたらす

パラレルな宇宙では過ちや失敗が広がっている。幸運にもわれわれは組織化するシステムを持っている。 ICSは災害専門家がパラレルな宇宙に持ち込む道具箱であり、グレートマシーンはその道具箱の中の最も重要な道具である。

国としては、われわれは失敗を最小限にし、カオスに秩序をもたらすためにその道具箱を身につけていくのに成功したとは言えない。最大の障害は連邦政府自体である。連邦政府はICSが国の災害対応システムであると言いながら、自身がICSの原則に従った対応をしないのである。

9.11が良い例である。ニューヨークへの攻撃に対応するために、FEMAとニューヨーク州とニューヨーク市は別々の場所に拠点を設置した。FEMAは合同現場事務所をハドソン川第92桟橋の南側のもう一つの客船用埠頭に置いた。ニューヨーク州は150マイル北のオールバニーの州オペレーションセンターにとどまった。こうして1カ所からの災害対応ではなく3カ所になった。この機能不全の環境が方針の失敗につながり不必要な苦難を生む結果となったのだ。

使命の異なる複数の機関が説明責任なしにばらばらに活動するというこのパターンがあらゆる被災地域で繰り返される。「それは正しくない。9.11はもう20年近く前のことであり、その後前進があった」という人がいるかもしれない。それに対しては、ICSは何も変わっていないと言いたい。

黒塗り(blackout)

2012年11月の最終週、そしてニューヨーク市EOCにまで話を早送りすると、大西洋のはるか沖で、ハリケーン・サンディは急な左旋回をして米本土の東海岸を直撃するコースをとった。

10年以上にわたって、沿岸ストーム計画ができて間もない頃から、OEMは国立ハリケーンセンターと緊密に協力してきていた。東海岸やメキシコ湾沿岸州の同僚と同様に、われわれはマイアミのハリケーンセンターへ出張してハリケーンの直撃に備えた訓練を何日間、何時間も行った。

そのプロセスは論理的で、矛盾のない、明々白々なものであった。われわれはその訓練を継続して行い、全てのハリケーンにおいてリアルタイムでそれを稼働させた。2011年8月、ハリケーン・アイリーンへの対応においてもそれはうまく機能した。

この年(2012)は、超大型ストームサンディへの対応において、全てのことが変化した。

ハリケーンはその狂暴なエネルギーを大洋の海水に隠された熱から得る。海水からの熱エネルギーを、ストローで液体を吸い上げるように飲み込むのだ。サンディはハリケーンシーズンには遅れてやって来た。大洋の水は比較的冷たかったので、ハリケーンではなく、上陸前に温帯低気圧になるだろうとの予報であった。熱帯ストームの状況とハリケーンの強風は避けられなかったが、サンディは厳密には熱帯サイクロンには当たらず国立ハリケーンセンターの”管轄外“のものだった。

巨大な連邦官僚機構の最上層部で、われわれの論理的で、矛盾のない、明々白々なプロセスの基盤である国立ハリケーンセンターは稼働させないという決定がなされた。

新たな計画は緊急事態対応マネジャーが東海岸の南北を行ったり来たりしてセンターの専門家からなるチームと協働するというものであった。

問題は、センターはわれわれが話し合いたいと思っている一つのことについて、われわれと話をしようとしないことだった。ストームの大波がハリケーンのハザードの第一のものであり、それは急速に動く水の壁となって人々を溺死させ、ハリケーンによる死亡者の半数以上はそれが原因である。それゆえ沿岸ストーム計画では重大なストームの大波が予想される場合には、強制避難を求めている。ニューヨーク市は一昨年その警報を発してニューヨーク市長は強制避難を命令した。2011年8月、ハリケーン・アイリーンの上陸前に9000人の患者が沿岸地域の病院と介護施設から避難した。

米国ハリケーンセンターが関与しないと聞いたときは当惑した。われわれは彼らに、そして考えうるあらゆる人に、OEMの回転式住所録を使ってコンタクトした。サンディの温帯低気圧の特性がストームサージ(高潮)の予測において何を意味するかを話したかった。われわれが探し当てた専門家たちは、「ストームサージについて語ることができるのはハリケーンセンターのみなのでその問題には”黒塗り“の部分がある」と言うのみで議論をしようとしなかった。

地元の国立気象局がEOCに気象予報士を派遣した。ストームの襲来に備えて、来る日も来る日も終日4時間ごとに全員を集めて避難の決定を検討した。そして4時間ごとにストームサージのことを話し、国立気象局の気象予報士は強風と洪水によって”死者が出る可能性のあるストーム”の話をした。

問題はニューヨーク市ではときどき発生するいかなる雷雨も強風と洪水によって”死者が出る可能性のあるストーム”になりうることだった。われわれには数字、具体的には地上高水位の予測が必要だった。地上高の予測データでなければわれわれの避難決定には役立たなかった。不幸にも国立気象局の気象予報士たちはEOCの内外を問わずストームサージが何であっていかに危険なものになりうるかを明確には理解していないということがすぐに分かった。

それを解決する方法、助けに呼ぶべきジョー・ロータ、連邦組織図の巨大な機械にギヤを入れる方法はなかった。ある晩遅く、米陸軍工兵隊のハリケーン計画マネジャーであるドナルド・クレシテロからようやく電話がかかってきた。

「ハリケーンセンターが、話があると言っている」とのことであった。国立ハリケーンセンターの専門家たちが失敗に終わった黒塗りの方針に反旗を翻して自分たちの問題として取り上げていたのだ。命令に反して正しい決定に必要な助言と地上高のデータを提供するために手を差し伸べてくれたのだ。

カオスにカオスをもたらす

災害時に国として団結する能力は進歩したと考える人は間違っている。それは全ての災害において同じパターンの機能不全を見続けてきたから言えることだ。EOCに来て間もない若いスタッフがそれに遭遇するとびっくりすることがある。災害対応の中心から遠く離れた場所に拠点を置くことに加えて、大災害の際の連邦政府は日々の官僚的な仕事を映す鏡である。誰にも責任をもたず地球を巨人のようにおおまたに歩くパワフルな長官に率いられた規律のない政治的な機関の侵入を生むのである。

地方自治体の観点からすれば、どこにも説明責任はほとんどないように思われる。連邦組織図の中間管理層は強い”現地化しない“文化で州や自治体の政府を信用しないように条件づけられている。そのため連邦の機関は誰のグレートマシーンにも接続しない。

こうした機能不全の文化によって生じるのは膨大な機会の損失である。われわれの連邦政府は莫大な資産と才能を持っている。最大のグレートマシーンを呼び集めることができる可能性がある。

約50年前のカリフォルニア州のあの悲惨な森林火災のシーズンにさかのぼれば、そこで明らかとなった説明責任の欠如、劣悪なコミュニケーション、諸機関の不統一、フリーランサー(自由契約者)的な活動などの問題点を見ることができる。これらの問題点こそがそもそもFIRESCOPEにICSを開発させることになり、この国に発生するだろう次なる大災害にも、連邦の機関を現場に投入し続けることになったのである。数十人という連邦の最高幹部が権限なしに介入し、フリーランサー的な動きをして、カオスにカオスをもたらすのである。

(続く)

翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300