2016/06/09
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
水を防いで水蒸気は外に逃がす「透湿防水素材」
そんなわけで、熱が上がると解熱剤という薬が存在しますが、熱が下がったらあげる薬はありません。濡れるというのは、みなさんが想像する以上に、命にかかわるのです。だから、山では濡れないように、レインウェアが最重要装備になっているのです。

もっとも、かつての山道具は、外からの雨雪を防ぐべく防水性能をあげたのですが、体から出る汗による体温の低下を防ぐことができませんでした。防水と透湿は相反する機能なので、両立が難しかったのです。しかし、1970年代に透湿防水素材が開発されたことにより両立が可能になりました。代表的な透湿防水素材のGore-Texは、1㎠に14億個前後の小さな穴があいており、その穴が、穴より大きな水滴は防ぐけれど、穴より小さい水蒸気は、外に放出できます。これをレインウェアに使うことにより、山で人が死ぬことが少なくなりました。

また、透湿防水素材の性能は、透湿性と耐水圧で表示されます。透湿性が高ければ、蒸れません。耐水圧が高ければ濡れません。傘でもこの耐水圧は2000mmのところ、透湿防水素材になると、10000mmを超えています。レインウェアのみで雨は防げるものなのです。20000mmを超えるあたりになれば、大人がレインウェアを着たまま水たまりにすわっても濡れません。それゆえ、雪の上にすわっても濡れません。雨にも雪にも使えるレインウェアということになりますので、いつも雪が降る地方ではない場合の大雪対策とすることもできます。さらに風も通さないため、体感温度を下げません(風速1mで体感温度は1度下がります)。
これで、100均のものを避難袋に入れておくのと格段の違いがある事がおわかりいただけたのでは?
ちょっと雨を避ければいいわけではないのです。地震による避難、洪水による避難で、その後、電気もなく、暖もとれない場所で風雨をしのぐ可能性があるのです。その時、濡れたり、蒸れたりするレインコートを着ると、命を失うおそれがあることをしっかりイメージしていてほしいと思います。
雨の多い日本に住んでいるのですから、レインウェアだけはちゃんとしたものを普段から使う。だから災害時にも使える。そうなれば災害用に特別なものを用意しなくてもよく、普段も快適となると思うのですが、いかがでしょうか?
とはいえ、アウトドアの派手派手レインウェアは、とても通勤に着ることができないと思っている方もいらっしゃるかも。
でも、あるんです!ちゃんと!普通のビジネスコートにしか見えない透湿防水素材のものが。いろいろ出ているので、探してみてくださいね。
透湿防水素材のレインウェアは、お手入れすれば10年くらい持ちますし、リペアもしてくれます。いいものを長く使うということも服が多くなりすぎないコツです。旅行にも便利です。服が多いと、タンスや収納用具が必要になり、転倒防止も必要になってきますので。
ちなみに、お手入れの仕方を知らない方も多いです。詳しくはお店などで聞いていただくとわかりますが、洗濯機もOKです。専用洗剤で洗って、アイロンしたり、乾燥機をかけるのが一般的です。化学繊維=熱を加えるとすぐ溶ける というのは誤解ですからね。難燃性素材ではありませんが、アイロン(低温)は推奨されています。

アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方