2019/03/20
昆正和のBCP研究室
■「大災害はめったに起こらない」は神話に過ぎない
まず台風や洪水について見てみよう。平成27年(2015)には茨城北部の鬼怒川が決壊し、住宅3000戸以上が浸水した。次いで平成29年(2017)には九州北部の豪雨災害。降雨量が観測史上最大(9時間で780mm)を記録している。平成28年(2016)には北海道を3個の台風が直撃、「北海道に台風は来ない」という気象観測の常識を覆した。そして平成30年(2018)には西日本(中国・四国地方)をゲリラ的な豪雨が直撃し、220名以上の犠牲者を出した。
こうした異常な豪雨と洪水の頻発は日本だけでなく、世界的な傾向であり、その主な原因が地球温暖化にあることは世界中の科学者の一致した意見となっている。そして地球温暖化はCO2という特定の物質の排出だけが原因なのではなく、人類の営みそのものによって引き起こされていると警鐘を鳴らす科学者も少なくない。我々が豊かさを追求し続け、過剰な生産と消費のサイクルを止めない限り地球温暖化も止まらない。つまり豪雨災害はこれからも頻発すると言っても過言ではないのである。
次に地震。私たちの脳裏にある「震度6~7クラスの大地震はめったに起こらない」という経験則は過去のものになりつつあるようだ。2016年の熊本地震(最大震度7)、2018年の大阪北部地震(最大震度6強)、同年の北海道胆振東部地震(最大震度7)、そして今後確実視されている巨大地震として南関東直下地震(首都直下地震、30年以内の発生確率70%)、南海トラフ大地震(同確率70~80%)がある。
日本には現在特定されている活断層が2000以上ある。日本列島は地球の表面上をゆっくり移動する巨大な4つの岩盤(プレート)がぶつかり合う不運な場所でもある。一説には2011年の東日本大震災を引き起こした大地震が、日本列島にある他の多くの活断層やプレートを刺激した可能性があるとも言われているから、これらは大地震が増えている理由とつながっているのかもしれない。
東日本大震災以降、BCP(事業継続計画)対策や豊富な地下水が利用できるといった理由で九州に工場を移した会社も少なくなかったが、2016年の熊本地震がその期待を打ち砕いた。今日では「地震はいつでもどこでも起こり得る」というのが専門家の一致した見方である。どの場所なら安全でどの場所なら危ないといった判断基準は通用しない。水たまりを避けるように地震リスクを避けることはできないのだ。
昆正和のBCP研究室の他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方