2019/02/12
安心、それが最大の敵だ
批准書交換
4月3日。批准書交換の日であった。午後からデュポン大佐、リー大佐、レドヤード国務長官秘書官らの案内で、三使、御勘定組頭、調役、御徒目付らが普段着のまま下役を伴って馬車で国務省に赴いた。国務長官ルウィス・カスの執務室に入ると他に政府高官や書記官なども日本使節を待ち受けており、特段の儀礼もなく、カスの机の上で批准書を取り交わした。
日本側の批准書は日本語で書かれており、表紙は大和錦(唐錦をまねたもの)を紅の糸でとじている。奥書きには外国事務閣老(老中)と大君(将軍)の署名と花押(判)がついており、オランダ語訳が添えてある。それを黒塗の箱に入れ、銀の環(たまき)と紅色の紐で結び、紅綸子(べにりんず、絹織物の一種)の袱紗(ふくさ、風呂敷より小さい絹布)に包まれている。アメリカ側のものは英語で書かれていて、大統領と国務長官の署名が付いている。オランダ語訳も添えられており、綴じ糸の先を寄せて赤い封蝋(ふうろう)をし、銀の金具のついた箱に入れてある。
日米双方が条約を批准した証(あか)しとして、日本側は和文に全権・新見、村垣、小栗の3人が署名し、カス国務長官は英語の証書に署名して、互いにオランダ語訳を添えて交換した。批准書交換後、日本使節一行はいったんホテルに帰った。
大統領謁見と批准書交換という最重要の外交案件をつつがなく終わらせた後もワシントン在住の政府高官らが妻子を連れて日本人一行に面会に訪れた。一度に100人も来ることも珍しくなかった。中には商人や農民もいた。幕府高官小栗には不思議でならなかった。
77人のサムライの帰国後は、尊王攘夷の暴風の中で、不運の最期を遂げた者が少なくないことは銘記すべきことだろう。薩長藩らの国粋主義者らから「西洋かぶれ」と見なされた。小栗は薩長軍によって「問答無用」と斬殺されたのであった。
参考文献:「77人の侍アメリカに行く」(レイモンド服部)、「万延元年の遣米使節団」(宮永孝)、筑波大学附属図書館文献。
(つづく)
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/01
-
-
-
-
-
全社員が「リスクオーナー」リーダーに実践教育
エイブルホールディングス(東京都港区、平田竜史代表取締役社長)は、組織的なリスクマネジメント文化を育むために、土台となる組織風土の構築を進める。全役職員をリスクオーナーに位置づけてリスクマネジメントの自覚を高め、多彩な研修で役職に合致したレベルアップを目指す。
2025/03/18
-
ソリューションを提示しても経営には響かない
企業を取り巻くデジタルリスクはますます多様化。サイバー攻撃や内部からの情報漏えいのような従来型リスクが進展の様相を見せる一方で、生成 AI のような最新テクノロジーの登場や、国際政治の再編による世界的なパワーバランスの変動への対応が求められている。2025 年のデジタルリスク管理における重要ポイントはどこか。ガートナージャパンでセキュリティーとプライバシー領域の調査、分析を担当する礒田優一氏に聞いた。
2025/03/17
-
-
-
なぜ下請法の勧告が急増しているのか?公取委が注視する金型の無料保管と下請代金の減額
2024年度は下請法の勧告件数が17件と、直近10年で最多を昨年に続き更新している。急増しているのが金型の保管に関する勧告だ。大手ポンプメーカーの荏原製作所、自動車メーカーのトヨタや日産の子会社などへの勧告が相次いだ。また、家電量販店のビックカメラは支払代金の不当な減額で、出版ではKADOKAWAが買いたたきで勧告を受けた。なぜ、下請法による勧告が増えているのか。独占禁止法と下請法に詳しい日比谷総合法律事務所の多田敏明弁護士に聞いた。
2025/03/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方