6. 取締役会、臨時株主総会
 (2014年10月~12月5日)

◇読者不在の“お家騒動”

朝日新聞は14年11月14日の臨時取締役会で、木村社長が吉田調書報道と慰安婦誤報問題の責任をとって辞任し、後任に渡辺雅隆取締役が就任する人事を内定した。木村氏は「特別顧問」に就任すると発表されたが、同月28日の取締役会では「顧問」に格下げとなり、12月5日の臨時株主総会では顧問就任も辞退するなど、同氏の処遇が二転三転した。

朝日新聞関係者によると、10月には、木村氏は社長は辞任するものの特別顧問として居座りいわゆる「院政」を敷くつもりではないかとの見方が社内で強まった。これに危機感を抱いたOBの集まりである東京、大阪など五つの「旧友会」は同月20日、中江利忠東京旧友会会長(元社長)ら各トップの連名で木村氏に退陣を促すとともに役員を一新するよう求める文書を全取締役、監査役、村山・上野両社主家に送った。その後、この文書は旧友会のホームページに全文がアップされ、朝日新聞の“お家騒動”が世間に知れわたることとなり、木村氏は次第に追い詰められていった。

朝日新聞は慰安婦と吉田調書の2つの誤報で崖っぷちに立たされていたが、その期に及んでなお社内の主導権争いは激しさを増していたようで、これも読者離れの一因になったとみられる。ただ、社内には木村氏の影響力を絶ったことを当然視する声も根強い。

7. 第三者委員会が報告書提出、朝日新聞が「見解と取り組み」を発表
 
(2104年12月22日、26日)

◇経営が編集に過剰介入

新聞社などのメディアには、報道の自由を守る観点から、編集に関する最終決定は経営に携わらない編集部門の責任者が行うようにすべきだという「経営と編集の分離」の考え方がある。それを徹底すれば経営者の“暴走”は止められるのだろうか。

報告書は、新聞社において守られるべき原則である点は認めながらも、報道は新聞社の事業として行われるので、新聞社が組織として危機管理を必要とする場合には、合理的な範囲で経営幹部が編集に関与すること自体はあり得るとしている。

しかし、今回のケースについては、「企画立案から紙面の内容に至るまで経営による『危機管理』が先行しすぎて」おり、「『社を守る』という大義によって、さまざまな編集現場の決定が翻された」と指摘。さらに「今回の問題の多くは、編集に経営が過剰に介入し、読者のための紙面ではなく、朝日新聞社の防衛のための紙面を作ったことに主な原因がある」と断定。介入する場合でも最小限で、限定的であるべきであり、新聞記者出身以外の第三者の意見を聴く必要があると提言した。

これを受けて朝日新聞は14年12月26日に「報告書に対する見解と取り組み」を公表し、「経営と編集の分離」原則を一層尊重すると表明。今後は、原則として記事や論説の内容に介入せず、例外的に経営に重大な影響を及ぼすと判断して介入する場合には、ルールを作り透明性を保証した上で行う、との方針を打ち出した。具体的には、①社外取締役も出席する取締役会に正式議題として諮るなどして議論を記録に残す、②社外の複数の有識者で構成する常設機関を設け意見を求める、③編集部門に判断の根拠を開示して意見を求める―などの対応策を示した。

日本新聞協会は1948年3月16日の「編集権声明」で、編集権の行使者について「編集内容に関する最終的責任は経営、編集管理者に帰せられるものであるから、編集権を行使するものは経営管理者およびその委託を受けた編集管理者に限られる。新聞企業が法人組織の場合には取締役会、理事会などが経営管理者として編集権行使の主体となる」との見解を示している。