ポーラ・オルビスホールディングス本社

化粧品販売を主力とするポーラ・オルビスグループの持ち株会社ポーラ・オルビスホールディングス(東京都中央区、鈴木郷史社長)は、長期経営計画にサステナビリティ関連で5つの重点領域を設定。その一つの環境に対しては、気候変動対応に高い目標を定めている。TCFD 開示に積極的に取り組み、成長を維持しながら、低炭素社会の実現に貢献していきたい考えだ。
記事中図表提供:ポーラ・オルビスHD

ポーラ・オルビスホールディングス
東京都

※本記事は月刊BCPリーダーズvol.30(2022年9月号)に掲載したものです。

事例のPoint

❶既存のCSR委員会を中心に推進体制を構築

・サステナビリティのマネジメントは新たな委員会を設けず、既存のCSR委員会を中心に構築。グループの負担増を避けるとともに、これまでの全社的リスクマネジメント(ERM)で培ったノウハウを活用。
 

❷多様なステークホルダーを踏まえて影響を分析

・自社への影響要因を多様なステークホルダーを踏まえて分析。2℃と4℃のシナリオでグループが目指す姿を確立し、優先順位を付けて対応策を練る。サプライチェーンの目標も設定。
 

❸シナリオ分析からグループの未来像を可視化

・シナリオ分析の結果から未来像を描き、グループが目指す方向性を可視化。具体的なアクションへのつながりを明確にし、イメージを共有して、社内や事業会社の理解を深める。

長期経営計画の重点に気候変動対応

カウンセリングを通した化粧品販売を展開するポーラと通信販売を軸に化粧品のブランド体験を提供するオルビスなどの持ち株会社として、2006年に設立したポーラ・オルビスホールディングス。創業100 周年にあたる2029年に向けた長期経営計画では、サステナビリティに関する5つの重点領域を設定し、その一つの「環境」に気候変動を位置付けている。

同計画では、CO2排出量を2019 年度比で42%削減することをKPIに設定。2021年からの中期経営計画においてもその目標を設定し、役員報酬にも連動させている。今年8月には2050年に「ネットゼロ」の実現を目指すと公表した。

コーポレートコミュニケーション室
サステナビリティ統括チーム課長 南部裕亮氏

COP26や政府のカーボンニュートラル発表のように、気候変動に対しては世界的な取り組みが加速している。同社コーポレートコミュニケーション室サステナビリティ統括チーム課長の南部裕亮氏は「我々は美しい地球とともに持続的に成長していくために、気候変動リスクに対応していく必要があると考えています。東証プライム上場企業としてTCFDに対応し、ESG投資を通して低炭素社会の実現に積極的に貢献していきたい」と話す。

サステナビリティマネジメントの推進体制

ポーラ・オルビスホールディングスのサステナビリティマネジメント体制は、TCFD開示に取り組むタイミングでさらに強化された。気候変動対策の執行機関となるグループCSR委員会が、サステナビリティの方針を策定。グループ各社はその決定を事業計画に反映させる。

リスクと機会で担当する委員会を分け、気候変動に関連するリスクはグループCSR委員会が、機会はグループ執行会議が各社の内容審議やモニタリングを実施している。

グループCSR委員会はCSR担当役員が委員長を務め、ホールディングスからは取締役と関連役員、事業会社の中でも中核のポーラやオルビスは取締役、規模の小さい育成ブランド企業等は社長が参加する。開催は年に5回で、事務局はコーポレートコミュニケーション室のサステナビリティ統括チームが務める。

グループ各社の経営企画部門やサステナビリティ部門が参加するグループCSR事務局長会議は、サステナビリティ活動推進と重要テーマの進捗管理を担う。年に4回の開催に加えて、少なくとも1回はサステナビリティ関連の勉強会を実施している。実行部隊として活動の中心となるのが、各社のサステナビリティ関連の部署、またはCSR事務局になる。

このようなサステナビリティのマネジメントは、新たな委員会を設けるのではなく、既存のCSRマネジメント体制を活用している。実は同社のCSR委員会は、サステナビリティのほかにもリスクマネジメントやコンプライアンスも担っている。一般的にはサステナビリティとリスクマネジメントの担当を分けるケースが多いが、南部氏は同社のサステナビリティマネジメント体制の構築をこう説明する。

「サステナビリティの体制は新たな分野として独立させるとしても、グループの負担増は極力避けたかった。既存の枠組みを活用し、かつ適切に評価するために現在の体制にしました。TCFDのリスクと機会の洗い出しは、これまでのリスクマネジメントのリスク洗い出しと変わらない。CSR委員会を中心にすることで、全社的リスクマネジメント(ERM)で培ったノウハウをもとに、気候変動に対して深く掘り下げられる利点もあった」